■体を整える

慢性的な痛みは「脳の出力」だった|痛みの神経科学と新しいアプローチ

2026年4月29日

「痛い場所=壊れている場所」ではない

指を切ったら痛い。ぶつけたら痛い。こうした急性の痛みは「体が壊れた信号」として分かりやすいものです。

しかし、何ヶ月・何年も続く慢性的な痛みは、この常識に当てはまらないことがあります。検査をしても異常が見つからない。組織は治っているのに痛みが消えない。昨日はなんともなかったのに、今日は同じ動きが激痛になる——。

慢性痛を抱えている方にとって、「痛い場所が悪いはずだ」という思い込みが、回復の大きな壁になることがあります。

痛みは「入力」ではなく「出力」

現代の疼痛科学は、従来の痛みの常識を大きく覆しています。

疼痛神経科学の研究から、痛みは組織から脳へ送られる「入力信号」ではなく、脳が「体に危険がある」と判断したときに生み出す「出力」であることが明らかになっています [1]

つまり痛みは、体の損傷の「報告書」ではなく、脳が作り出す「保護のためのアラーム」。組織が実際に壊れているかどうかは、痛みの有無を必ずしも決定しません。脳が「危険だ」と判断すれば痛みが出るし、「安全だ」と判断すれば痛みは抑えられます。

戦場の兵士が重傷を負っても戦闘中は痛みを感じにくいのも、安全な状況に移ってから激しい痛みを感じるのも、この仕組みで説明できます。

ポイント

痛みは「組織損傷の報告書」ではなく、脳が「危険」と判断したときに生み出す「保護のためのアラーム」。慢性痛の問題の本質は体の末端ではなく、脳の判断システムにある。

痛みを決定する「神経ネットワーク」

脳の判断は、一箇所の脳領域ではなく、大脳皮質・辺縁系・脳幹にまたがる複数の領域が連携するネットワークで行われています。これを「ペインニューロマトリクス(痛みの神経行列)」と呼びます [2]

このネットワークは、組織からの侵害受容信号だけでなく、過去の経験・記憶・感情・文脈・信念・社会的状況など、ありとあらゆる情報を統合して「痛みを出すかどうか」を判断しています。

同じ動作でも「この動きは危ない」と思っていると痛みが強くなる。MRIで異常が見つかった途端に痛みが増す。これはすべて、情報が脳の判断を変えることで痛みが変化する現象です。

慢性痛で特に問題なのは、このネットワークの感度が上がりすぎて、少しの刺激でも——あるいは刺激がなくても——痛みを生成する状態に陥ることです。いわば「痛みのOSにバグが発生している」状態です。

JINENの慢性痛へのアプローチ

JINENボディワークが慢性痛に対してまず行うのは、「痛い場所を治す」ことではなく、「脳の判断を書き換える」ことです。

① 神経系を安全モードに切り替える

脳が「危険」と判断している状態で体を動かしても、痛みのアラームは鳴り続けます。まず呼吸や環境設定で安心モードを確立します。

② 痛みの仕組みを理解する

痛みのメカニズムを正確に理解すること自体が、痛みを減少させることが示されています [1]。「痛い=壊れている」という誤解を解くだけで、脳の判断が変わり始めることがあります。

③ 安全な動きの経験を重ねる

小さく安全な動きを繰り返し成功させることで、脳に「この動きは安全だ」という新しい判断材料を提供します。少しずつ「安全な経験」を積み重ねることが、慢性痛のOSを書き換えていきます。

慢性痛の問題は「体」ではなく「体のOS」にある。 だから、OSそのものを書き換えるアプローチが必要です。

補足

この記事はJINENボディワークの考え方をもとに、一般の方向けに解説したものです。紹介している研究は学習・参考目的のものであり、効果を保証するものではありません。症状が深刻な場合は専門家にご相談ください。

参考文献

1. Moseley, G. L. & Butler, D. S. (2015). Fifteen years of Explaining Pain: The past, present, and future. The Journal of Pain, 16(9), 807–813. DOI

2. Moseley, G. L. (2003). A pain neuromatrix approach to patients with chronic pain. Manual Therapy, 8(3), 130–140. DOI00051-1)

📩 無料メルマガ配信中!

JINENボディワークの原理とワークを、体系的にやさしく解説。登録はこちらから▼

無料メルマガの登録はこちら


🌱 さらに深く、実践的に学びたい方へ

動画講座を中心に、ボディワークを体系的に学べるオンライン教室を運営しています。詳細はこちらから▼

オンライン教室の詳細はこちら

-■体を整える
-,