「ヘルニアがあります」と言われたとき
腰痛がひどくてMRIを撮ったら、「椎間板ヘルニアがありますね、これが原因でしょう」と言われた。画像には確かに飛び出したディスクが写っている。
そう言われれば、「だから痛かったんだ」と納得するしかない気持ちになります。しかし、疼痛科学の研究は、この「画像=痛みの原因」という常識に大きな疑問を投げかけています。
痛くない人の背骨にも「異常」はある
大規模な系統的レビューの研究から、まったく痛みのない健常者の背骨にも、加齢による変性所見が高頻度で見られることが明らかになっています [1]。
その数字は驚くべきものです。
| 年齢 | 椎間板変性 | 椎間板膨隆 | 椎間板突出 |
|---|---|---|---|
| 20代 | 37% | 30% | 29% |
| 80代 | 96% | 84% | 43% |
80代のほぼ全員に椎間板変性があり、その多くは無症状なのです。これらの所見は「異常」ではなく、加齢に伴う正常な変化の一部に過ぎません。
先行研究でも同様に、腰痛のない健常者のMRIでヘルニアや変性所見が高頻度に検出されることが報告されており、画像所見を痛みの原因と安易に結びつけることへの警鐘が鳴らされていました [2]。
画像を見ること自体が痛みを作ることがある
さらに重要な問題があります。画像を見せられること自体が、痛みを悪化させる可能性があるということです。
「あなたの背骨はこんなに変形しています」という画像を見せられると、脳は「自分の体は壊れている」と判断します。すると、防衛反応が強化され、痛みを処理する脳のネットワーク(ニューロマトリクス)への入力が増え、痛みが増幅されます。さらに「動くと危ない」という恐怖が生まれ、回避行動が始まる。
画像所見は「痛みの原因」ではなく、「痛みを増幅させるきっかけ」になりうるのです。
なぜ「同じ状態」でも痛みに差が出るのか
痛みを決める要素は、組織の状態だけではありません。
脳は常に「これは危険か、安全か」を判断しています。その判断には、組織の状態(画像所見など)だけでなく、ストレス・睡眠・社会的サポート・過去の経験・信念・感情状態など、さまざまな情報が総合されます。
同じヘルニアがあっても、ある人は激痛を感じ、ある人は何も感じない。 その違いは、脳が「これは危険だ」と判断しているかどうかにあります。
JINENの視点:痛みの「意味」を変える
JINENボディワークでは、慢性痛に対して「痛い場所を治す」という発想ではなく、「痛みに対する脳の解釈を変える」アプローチを取ります。
- 「壊れている」のではなく「過敏になっている」と理解する:組織の損傷と痛みは必ずしも一致しないことを知るだけで、恐怖が減り、痛みが変化し始めます
- 安全な動きの経験を重ねる:「この動きをしても大丈夫だった」という成功体験が、脳に新しい判断材料を提供します
- 神経系を安全モードに戻す:脳が「安全だ」と判断すれば、痛みのアラームは自然に下がっていきます
画像に映るものがすべてではない。痛みの鍵を握っているのは、背骨の形ではなく、あなたの脳がそれをどう解釈しているか、なのです。
参考文献
1. Brinjikji, W. et al. (2015). Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR American Journal of Neuroradiology, 36(4), 811–816. DOI
2. Jensen, M. C. et al. (1994). Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain. New England Journal of Medicine, 331(2), 69–73. DOI