「下から抜ける」感覚
「お腹に力を入れているつもりなのに、体幹が安定しない」「コアを意識しても、どこか下の方が抜けている感じがする」「くしゃみや重いものを持ったとき、お腹から力が漏れる感覚がある」。
体幹の安定を語るとき、多くの人が意識するのは腹筋や背筋です。しかし、いくら前後左右の壁を固めても、底が抜けていれば圧力は保てません。 その「底蓋」にあたるのが、骨盤底筋群です。
骨盤底筋群は「呼吸と姿勢の筋肉」である
骨盤底筋群の姿勢・呼吸機能に関する研究では、骨盤底筋群が呼吸と姿勢の両方の機能を同時に遂行していることが示されています [1]。
具体的には:
- 吸気時:横隔膜が下降 → 腹腔内圧が上がる → 骨盤底筋群がそれを受け止めるように反射的に収縮する
- 呼気時:横隔膜が上昇 → 骨盤底筋群も弛緩する
- 手足を動かす直前:横隔膜・腹横筋と協調して、骨盤底筋群がフィードフォワード的に活性化する
つまり、骨盤底筋群は横隔膜と上下のペア(ピストンのように連動する関係)として機能しているのです。横隔膜が腹圧シリンダーの「天井」なら、骨盤底筋群は「底面」です。
「力の漏れ」が全身に波及する
骨盤底筋群と体幹安定性の関連を調べた研究では、骨盤底筋群の機能不全が体幹全体の安定性を損ない、腰痛や姿勢不良との関連が示唆されています [2]。
骨盤底筋群の感覚がない方には以下のようなパターンがよく見られます:
- 腹圧が「下に抜ける」:いくら腹横筋を意識してもコアの感覚が掴めない
- 骨盤が不安定:仙骨のフォースクロージャーが弱まり、腰椎の過緊張で代償する
- 呼吸と体幹が分離する:深い呼吸をしようとすると体幹がグラグラする
- 「下半身から上半身が浮いている」感覚:上虚下実の「下実」が成立しにくい
骨盤底筋群と自律神経
骨盤底筋群にはもうひとつ重要な側面があります。横隔膜の呼吸運動によるリズミカルな腹圧変化は、内臓への「マッサージ」効果を持ち、迷走神経の求心路を通じて脳に安心信号を送ると考えられています [3]。
骨盤底筋群が適切に連動していないと、この「呼吸による内臓の揺さぶり」が弱まり、内受容感覚の入力が乏しくなり、自律神経の調整力が低下する可能性があります。
JINENが骨盤底を「感じる」アプローチ
実践のポイント:
- 呼吸と連動させる:息を吐くときに、下腹の一番奥(骨盤の底)がわずかに引き上がる感覚を探す。「締める」のではなく「吐息とともに自然に上がる」のを感じる
- 坐骨の間を感じる:椅子に座って左右の坐骨の存在を感じ、その間にある空間(骨盤底)を意識する
- 四つ這いの呼吸ワーク:四つ這い姿勢では内臓が前方に引かれるため、骨盤底は排泄機能から解放され、呼吸との連動に集中しやすくなる
天井(横隔膜)・壁(腹横筋・多裂筋)・底(骨盤底筋群)のすべてが協調して初めて、「下から支えられている」安心感が立ち上がります。
参考文献
1. Hodges, P. W., Sapsford, R. & Pengel, L. H. M. (2007). Postural and respiratory functions of the pelvic floor muscles. Neurourology and Urodynamics, 26(3), 362–371. DOI
2. Sapsford, R. R., Hodges, P. W., Richardson, C. A., Cooper, D. H., Markwell, S. J. & Jull, G. A. (2001). Co-activation of the abdominal and pelvic floor muscles during voluntary exercises. Neurourology and Urodynamics, 20(1), 31–42. DOI20:1<31::AID-NAU5>3.0.CO;2-P)
3. Park, H. & Han, D. (2015). The effect of the correlation between the contraction of the pelvic floor muscles and diaphragmatic motion during breathing. Journal of Physical Therapy Science, 27(7), 2113–2115. DOI