「体幹を鍛えれば姿勢が良くなる」は本当か
体幹を固めろ、背筋を固定しろ、コアを締めろ——姿勢改善の文脈でよく聞く指示です。しかし、人体の構造をよく観察すると、このアプローチには根本的な矛盾があることが分かります。
骨と骨は直接積み上がっていません。間に軟骨、靱帯、筋膜、筋肉が介在し、骨は筋膜のネットワークの中に浮いているような状態です。「柱のように固める」という発想は、人体の本来の構造原理とは合っていないのです。
テンセグリティ:張力で安定する構造
生物学・建築学の分野で、生命体の構造原理として「テンセグリティ(tensegrity = tensional integrity)」という概念が提唱されています [1]。
テンセグリティとは、連続する張力(テンション)と局所的な圧縮(コンプレッション)のバランスによって安定する構造のことです。
- 圧縮材(ストラット)=骨:力を押し返す硬い部材。互いに直接接触していない
- 張力材(ケーブル)=筋膜・靱帯・筋の張力ネットワーク:全体にわたって張力を分配する
この構造の特徴は、圧縮材どうしが直接積み重なっていないことです。骨は筋膜の張力ネットワークの中に「浮いて」おり、張力の均衡によって全体の形が保たれています。
「固める」と壊れる理由
テンセグリティの原理から、「体幹を固める」アプローチの問題点が見えてきます。
①局所ではなく全体で支える構造
テンセグリティ構造では、ひとつの点に加えた力は構造全体に分散されます。「肩が凝っている」のは肩だけの問題ではなく、全身の張力バランスが崩れた結果として肩に負荷が集中している可能性があります。
②固めると張力が途絶える
この構造は張力の連続性によって安定しています。一部を硬く固めると、張力の流れが止まり、そこに力が集中して故障のリスクが上がります。「体幹を固める」姿勢は、テンセグリティの原理に反しています。
③しなやかさが強さの源
テンセグリティ構造は外力に対して「たわむ」ことで衝撃を吸収します。固い構造は折れますが、しなやかな張力構造は変形して復元します。これがJINENが「固めず、しなやかに」と繰り返す理由です。
筋膜のつながりが全身を統合する
ボディワークや手技療法の分野では、筋膜の連続的なつながり(「筋膜経線」)を体系化した研究があり、個々の筋肉を独立して見るのではなく、全身にわたる筋膜のラインとして捉えることで、離れた部位の痛みや機能障害を統合的に理解できることが示されています [2]。
つまり、腰の問題は腰だけの問題ではなく、足底から首まで続く張力ラインの問題として理解する必要があります。「腰を固める」ことで腰痛を防ごうとすることは、张力ラインの一部を遮断することであり、かえって別の部位に負荷を集中させます。
JINENの「固めない」姿勢観
JINENボディワークが「筋肉を固めて支える」姿勢観を否定するのは、テンセグリティに近い考え方を持っているためです。
- 筋膜のつながりを重視し、全身の張力バランスを整える
- 「固める」トレーニングではなく「つなげる」ワークで張力の連続性を回復する
- 骨を「積む」のではなく「浮かせる」感覚を養い、不要な筋緊張を手放す
体を支えているのは筋力ではなく、張力のネットワーク。 そのネットワークが自然に機能すれば、力まなくても、がんばらなくても、体は軽やかに立っていられるのです。
参考文献
1. Ingber, D. E. (1998). The architecture of life. Scientific American, 278(1), 48–57. DOI
2. Myers, T. W. (2009). Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists (2nd ed.). Churchill Livingstone. Google Scholar