止まらない頭の中のおしゃべり
夜、布団に入った瞬間から「明日の仕事大丈夫かな」「あのとき、もっとこう言えばよかった」と頭の中で独り言が始まる。散歩しているときも、誰かと話しているときでさえ、意識はどこか別の場所にさまよっている。
これは特別な悩みではありません。大規模な調査から、人は起きている時間の実に約47%を、いま目の前にあること以外のことを考えることに費やしていることが分かっています。そして、この「心のさまよい」が不幸感の直接的な原因であることが実証されています [1]。
頭の中のおしゃべりそのものが、私たちを不安にし、疲れさせているのです。
脳の「アイドリング」が暴走する
では、このさまよいはどこから来るのでしょうか。
脳科学の研究から、人が外的な課題に取り組んでいないとき(ぼーっとしているとき)に特に活性化する神経回路「デフォルトモードネットワーク(DMN)」が発見されています [2]。DMNは、過去の後悔・未来への不安・他人との比較・自己批判、といった思考を自動的に生み出し続けます。
DMNはいわば脳の「アイドリング」。エンジンを切っていないけれど、どこにも進んでいない状態です。現代人の問題は、このアイドリングが空回りして暴走していることにあります。
慢性的な痛みを抱えている方にも、DMNの過活動が見られることが報告されています。痛みを反芻し、不安を増幅させるDMNの暴走が、痛みの体験そのものを悪化させてしまうのです。
DMNを静めるスイッチ
では、どうすればDMNを静められるのでしょうか。
脳イメージング研究から、瞑想の訓練を積んだ人では、DMNの活動が有意に低下することが確認されています [3]。身体の感覚に注意を向け続ける訓練が、自己参照的な思考回路を物理的に静める効果を持っているのです。
ここで重要なのは、DMNを止めるために「何も考えない」必要はないということです。何も考えまいとすればするほど、かえって思考は活性化します。鍵は、意識の向き先を変えること。頭の中の思考から、体の微細な感覚へとフォーカスを移すことです。
「軽集中」が脳のブレーキになる
JINENボディワークでは、この状態を「軽集中」と呼びます。
座禅のように「無」になろうとするのではなく、足裏の圧・呼吸の流れ・背骨の揺れといった体の微細な感覚に、そっと注意を留め続ける。強く集中するのでもなく、かといって注意を手放すのでもない。このちょうどよい「軽さ」が、DMNの暴走を静めるブレーキになります。
ゆっくり体を動かしながら内側の感覚を感じ続ける「動きながらの瞑想」として実践すると、特別な場所や時間を用意しなくても、日常の中でDMNを静める習慣を作ることができます。
体で感じている限り、頭は暴走できない。これが、JINENが「体で感じる」ことを大切にする理由の一つです。
参考文献
1. Killingsworth, M. A. & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932. DOI
2. Raichle, M. E. et al. (2001). A default mode of brain function. Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(2), 676–682. DOI
3. Brewer, J. A. et al. (2011). Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(50), 20254–20259. DOI