「もっと力を出して」は間違っているかもしれない
「もっと力を出して!」——スポーツの場面でよく聞く言葉です。しかし、本当に優れた身体操作は、力を「出す」のではなく、外部の力を「もらう」ことで成立しています。
地面を踏めば、地面反力が返ってくる。ボールが飛んできたら、そのエネルギーを利用して打ち返す。相手に押されたら、その力を使って方向転換する。一流のアスリートや達人と呼ばれる人たちに共通するのは、この「もらう」感覚です。
アフォーダンス:環境が「くれるもの」
この考え方の基盤にあるのが、生態心理学で提唱された「アフォーダンス」という概念です [1]。
アフォーダンスとは、環境が動物に対して「提供する行為の可能性」のことです。平らな地面は「歩くこと」をアフォードし、椅子は「座ること」をアフォードする。行為の可能性は頭の中で計算されるのではなく、環境と体の関係の中にすでに存在しているのです。
この視点が示すのは、優れた動きとは「脳が正しい運動プログラムを計算すること」ではなく、環境が提供してくれるものを適切に「知覚」し「利用すること」だということです。
「もらう」の具体例
JINENボディワークで「もらう」対象は、主に3つです。
①重力をもらう
重力は常に体を地面に引いています。これに「抵抗する」(筋肉で支える)のではなく、「利用する」。体を傾ければ重力が落下のエネルギーを生み出し、それを歩行や方向転換に変換する。赤ちゃんや幼児が歩くとき、重力を「もらって」前に進んでいます。
②地面反力をもらう
足で地面を押すと、等しい力が跳ね返ってくる(ニュートンの第三法則)。この反力を脚→骨盤→脊柱→腕と伝えれば、自分の筋力以上の力が使えます。これがキネティックチェーン(運動連鎖)の本質です。地面からもらった力を全身に伝えることが「全身で動く」ことの核心です。
③慣性をもらう
動いている物体を動かし続けるのに力はいらない。一度動き出した体は慣性で動き続けます。スローモーションワークでも、慣性に「乗る」感覚を養います。力で動かすのではなく、始動したら慣性に乗せることで消費エネルギーが激減します。
「出す」発想が疲れを生む
「力を出す」という発想は、常に消耗を伴います。筋肉が主役になり、疲れる。なのに大きな力は出ない。
一方、「もらう」発想はエネルギー効率が格段に良い。重力・地面反力・慣性は常に「無料で」提供されています。それを受け取るセンサーと構造を整えることが、疲れない体への道です。
私が「体が変わった」と感じる瞬間のひとつは、意識していないのに体が動いてしまう経験です。重力に乗ったとき、地面から返ってきた力に乗ったとき、体は「もらう」モードに入っています。
JINENの「もらう」ワーク
JINENでは、「力を抜く」という表現よりも、「力をもらう」という表現を好みます。
- 床を押すのではなく、床からもらう
- 呼吸を頑張るのではなく、呼気の後に吸気が自然にもらえるのを待つ
- 腕を上げるのではなく、背骨の回旋から生まれた力が腕に伝わるのを感じる
体は、重力や地面反力と「対話」しているのです。 その対話がスムーズになることを、JINENでは「もらえている体」と呼んでいます。
参考文献
1. Gibson, J. J. (1979). The Ecological Approach to Visual Perception. Houghton Mifflin. Google Scholar