ポリヴェーガル理論

『その生きづらさ、発達性トラウマ?』の要約・感想

現代社会で「生きづらい」と感じている方は少なくありません。しかし、その原因を説明する理論は多く、どれが正しいのか分からない場合もあるのではないでしょうか。

自分の「生きづらさ」の原因が何なのか調べても、ある時は発達障害のようだと思ったり、ある時は親子関係からくる愛着障害だと思ったり、ある時は社会不安に関わる精神疾患ではないかと考えたり、と。

この本では、このように多くの方が抱える「生きづらさ」について、それが発達性トラウマである可能性を指摘しています。発達性トラウマがあると、たとえば下記のような問題が出てくるようです。

  • 人との感情を交えた交流ができなかい
  • 対人関係に強いストレスを感じ人間関係を拒む
  • 感情が凍り付き表現されない
  • 他人との関係で闘おうとする(闘争)ことや逃げること(逃走)が多い

さらに、これらは神経系の問題であるため、下記のような身体的な問題も抱えやすいようです。

  • 冷え性
  • 汗っかき
  • 眠れない、眠りが浅い
  • 肩こり、腰痛や身体の緊張
  • いつも眠い、やる気がない

あなたも当てはまるものがあるのではないでしょうか?

結論を言えば、「闘争」「逃走」のような行動を取りやすいのは交感神経系が興奮しやすいためであり、「凍り付き」のような状態になってしまっている人は背側迷走神経系が働きやすいためということのようです。

つまり、これまでの育ちの中で神経バランスが正常に発達しなかったために、それが身体や心の問題を引き起こし「生きづらい」と感じることになってしまっている可能性があるのです。

この『その生きづらさ、発達性トラウマ?-ポリヴェーガル理論で考える解放のヒント』から学んだことを一部紹介しますので、ぜひ読んでみてください。

子どもの健康的な育ちには安心できる環境が必要

不適切療育とは

そもそも子どもの健康的な発達には、安心できる環境や周囲にいい見本があることが必要です。

逆に、幼い子どもの周りに安心できる環境がない、いい見本となる人がいない、といった場合には子どもが健康的に発達できない場合があります。その結果、神経系が安定しない大人になってしまうようです。具体的には、感情が制御できなかったり、傷つきやすかったりして、周りとの人間関係が難しくなることが多いのです。

このような育て方のことを、不適切療育といいます。

健康的な発達ができないというと虐待のような厳しい環境を思い浮かべられるかもしれません。しかし、実は虐待のような例だけでなく、もっとありふれた家庭で、意図せずして不適切な育て方(不適切療育)をしてしまっているケースが多いようなのです。

たとえば、親が仕事で多忙、親の失業、経済的な困窮、災害による被害、介護や病気で親がいっぱいいぱいだった、もしくは親自身が不適切療育で育ち、不安定だった、などです。親に余裕がなく、子どもを厳しく育ててしまったり、放置気味になってしまったというケースが多いと考えられます。

不適切療養は虐待と違い、一見普通の生活をしていたため、不適切療養だったと自覚しにくいです。しかし、子ども時代の親との関係によって自己肯定感が低くなり、自責の念を持ち、人とうまくやっていけなくなるのです。

安全であると感じられる環境で神経系が正常に発達する

親が不適切療育をしてしまっていても、周りの大人のサポートで何とかなっていくこともあるようです。たとえば、祖父母や親戚が近所にいて面倒を見てくれたとか、学校の先生がよくしてくれた、などです。しかし、そのような安心して関われる大人がいなかった場合は神経系が不安定な大人になってしまうのです。

こうして育ってしまった状態を発達性トラウマといいます。

トラウマがあると、それを思い出すきっかけになりそうなことすべてを避けようとしてしまいます。そのため、行ける場所、付き合う人などが大きく制限されてしまい社会生活がうまくいかなくなりやすいです。また、過剰に緊張しているため、睡眠、食事など心身の不調が出やすく、メンタルに不調を抱えることも多いようです。

したがって、不適切療育によって発達性トラウマを抱えてしまったと思われる場合は、適切な対処法を実践していくことが大事になります。

結論を先にいえば、安心できる相手との健全な社会的交流をとることなどが有効であるようです。このような対処法が有効である理由を説明できるのが、ポリヴェーガル理論です。

これから、この著作におけるポリヴェーガル理論の説明の一部を紹介します。

ポリヴェーガル理論とは

そもそも、これまでの人の自律神経についての一般的な理解では「交感神経が働くと興奮し、副交感神経が働くとリラックスする」というものでした。

しかし、実はもう少し複雑である、ということを明らかにしているのがポリヴェーガル理論です。簡単に言えば、副交感神経には、リラックスや消化の働きだけじゃなく、シャットダウン(呼吸や心拍を極端に遅くする)もあるのです。

ここで、これからの説明を分かりやすくするために用語を整理しておきます。

まず、人の神経には中枢神経系(脳、脊髄)末梢神経系があり、さらに末梢神経系には体性神経系自律神経系があります。よく健康に関わる文脈で登場するのが自律神経系です。

さらに、ポリヴェーガル理論で重要になるのが迷走神経系ですが、これは下記のように区別できます。

  • 自律神経:内臓の働きなどのために休まず働き続けている神経。
  • 迷走神経:脳と内臓などの抹消器官をつなぐ神経で、体性神経と副交感神経が合わさったもの。全身を「迷走」するように走っている神経。
    迷走神経では、内臓の感覚を脳に伝える神経線維が80%、脳から内臓へが20%。内臓の状態が快適なら、安心感が得られる。脳でどう考えても、内臓からの信号が安全じゃなければ、それに応じた反応をしてしまう。

ポリヴェーガル理論では、この迷走神経には大きく「腹側迷走神経系」と「背側迷走神経系」があり、それぞれ異なる働きがあると説明しています。

結論からいえば、腹側迷走神経系は安全な社会的交流によって働くもので、腹側迷走神経系がうまく働かないことがさまざまな心身の不調につながってくるということです。

背側迷走神経系の発達

背側迷走神経系は、進化の古い過程で備わった神経系です。

背側迷走神経系は、あまり酸素を使わなくて良いようにすべての動きがゆっくりになります。また、敵が来たら生存のためにシャットダウンし、酸素を使わなくて良いように身をひそめます。

たとえば、動物が捕食されそうになったときに仮死状態になることがあります。これは生存のための本能ですが、仮死状態になることで、捕食者は「この動物はすでに死んでいて腐っているかもしれない」などと判断する場合があるのです。つまり、シャットダウンすることで生存可能性を上げられるということです。

このような、生命の危機に応じた反応としてシャットダウンするのが、背側迷走神経系の働きの一つであるとまずは押さえておきましょう。

交感神経系の発達

前述のように古い動物には背側迷走神経系が備わっていたのですが、その後、生命の進化の過程で、浅い水深で生活するようになって交感神経系ができました。

交感神経系が働くと、何らかの危機にさらされたときに素早く逃げたり(逃走)、敵と戦って生き延びようとしたり(闘争)するための反応をします。つまり、逃走・闘争のために心拍数をあげ、激しい運動をするモードに入るのです。

こうすることで、素早く逃げたり闘ったりして身を守れるようになりました。

腹側迷走神経系の発達

さらに哺乳類まで進化して、母子関係の中で赤ちゃんの言葉にならない声を聴いて、ニーズを理解しようとする必要が出てきました。特にヒトは細やかな交流を繰り返すことで、複雑な神経系を備えるようになります。

こうして、腹側迷走神経系は複雑な交流システムを支えるものとして発達したのです。

ヒトは未熟なまま生まれるため、母親とのコミュニケーションが非常に重要になりますし、社会を形成して仲間と複雑なコミュニケーションを取ることも重要です。このように集団として生活するようになったため、腹側迷走神経系の発達が不可欠だったのです。

したがって、腹側迷走神経系は、激しい感情に流されずにコミュニケーションで解決できるように機能しているのです。

腹側迷走神経系は、互いに安全であるという合図(ただの雑談など)で働きます。実際に安全であると感じる時に活発になるため、安全、絆は哺乳類の健康に絶対に必要なのです。そして、腹側迷走神経系が十分育つのに25年くらいかかるようです。

まとめると、神経の発達(進化)は、背側迷走神経系→交感神経系→腹側迷走神経系という順番でなされてきたのです。

そして、腹側迷走神経系が健全に発達しなければ、健全な社会生活が難しくなってしまうのです。

ニューロセプションとは

もしあなたが心身に何らかの問題を抱えている場合、これまでの成長の中でのニューロセプションの発達が健全ではなかった可能性があります。

ニューロセプションとは、常に周囲の状況が安全か否かを感じ取り、判断しているものです。頭の判断ではなく、神経の働きによってなんとなく身体全体で感じることです。内臓感覚もニューロセプションに影響を与え、たとえば「腑に落ちない」という感覚がそうなのだそうです。

その人の人生の歩みによって、ニューロセプションの発達の仕方が異なります。安心して育った人は、安全と危険を適切に見分けられますが、安心して育てず親の気分に左右されてきた場合、常に危険信号ばかり探してしまうようになる。その結果、ちょっとした刺激に過剰反応したり、人に無分別になついたりしてしまうということです。

発達性トラウマを持つ人は、ニューロセプションが常に危険を察知するように働いていて「闘争・逃走反応」「凍り付き」を選択するように働きやすいといいます。

意思による判断ではないため「考え方を変える」といった対策だけでは難しく、育てられ方によって影響を受けるのがニューロセプションの発達なのです。

腹側迷走神経系が正常に発達しない場合の問題

親との適切な関係で腹側迷走神経系が正常に発達する

不適切療育によって発達性トラウマを抱えてしまうと、常に神経系が警戒状態になり食欲、睡眠、生殖能力などにも悪影響を与えたり、大人になっても親に逆らえない、否定されるとひどく落ち込む、などの状態になります。

通常、動物は生命の危機を感じると背側迷走神経系を働かせて「凍り付き」「シャットダウン」するか、自律神経系を働かせて「逃走」「闘争」しようとします。そして、危機が過ぎ去るとすぐに元の安定した状態に戻れるのです。

しかし、不適切療育などで安心できない環境で育つと、危険が去っても危険な状態が続いていると神経系が勘違いしてしまいます。

その結果、心身の不調やメンタルが不安定、感情に動かされやすい、安心できない、といった大人になってしまうのです。また、表面的には人に合わせていて、一見普通でも、感情的な面で深く凍り付いていて、楽しみや喜びを感じられなくなっている人もいるようです。

腹側迷走神経系をしっかり発達させるには、育てる親が発達した腹側迷走神経系を持っていて、面倒見てあげることが必要です。

赤ちゃんは適切に育てられると腹側迷走神経系が発達し、相手の気持ちを気持ちよく受け取れるようになるし、相手が心地よいと捉えられるような反応を返せるようになります。

大人になっても、社会交流で腹側迷走神経系が正常にはたらくと、自分はうまくいっている、世界はよいところだという根源的な安心感を持てるのです。

逆に、適切な反応がないと、危険ばかりを探すニューロセプションになってしまいます。

腹側迷走神経系の役割

腹側迷走神経系は、交感神経や背側を機能するようにする指揮者の役割です。

腹側迷走神経系がうまく働くと、背側迷走神経系から臓器が調整されて「快」の感覚があり、心も安定します。交感神経も調整され、すぐかっとなったりしないようになります。

腹側迷走神経系が働くことで、闘争・逃走の交感神経の働きをマイルドにし、凍り付き(背側迷走神経系)の働きもマイルドにするのです。

このように、神経系のバランスが取れていれば、問題が起きてもすぐに気づき、周りからサポートを得たり、多くのエネルギーを消耗しなくてすみます。しかし、バランスが取れていない人は、人に助けを求められず、一人で対応するしかなくなり、多くのエネルギーが必要になります。

このように「生きづらさ」の原因は、腹側迷走神経系が正常に働かないことにある場合もあるのです。

危機に敏感なニューロセプションを持ってしまった場合の問題

腹側迷走神経系が健全に発達せず、危険に敏感なニューロセプションを持つと、3つの問題が出ると著者はいいます。

  • 自分に価値がないという恥の感覚:パワハラなどの被害者になる、嫌なことを断れない、搾取されやすいなど。
  • 人とうまくやれない:人と一緒にいるときの親密さが楽しめない、リラックスして人と交流できない、他人を激しく責めてしまうなど。
  • 健康が損なわれる:胃腸の不調、肩こり、冷え性、頭痛、依存症、さまざまな精神疾患など。

トラウマ的な出来事があると、神経系が高止まり(交感神経優位で過覚醒)や低止まり(背側迷走神経優位で低覚醒)になりやすいそうです。

「高止まり」の人は、常に緊張・警戒状態で、いつでも闘争・逃走できるように身体が備えている状態になります。そのため、心が落ち着かない、眠れない、眠りが浅い、動悸、汗が出るなどの症状になってしまう。

「低止まり」の人は、「凍り付き」状態にあるため、自己主張しない、怖がり、不登校・引きこもり、人の目が気になる、自分に価値を感じない、冷え、頭痛、めまいなどになり得ます。

さらに、高止まりと低止まりを乱高下する人もいるようです。

発達性トラウマから解放されるための方法

ここまで読むと、不適切療育を受けて正常なニューロセプションが身に付けられなかった人は、大人になっても大変なままなのか、と思われるかもしれません。

しかし、著者によれば、神経系は可塑性があるため大人になっても変えられるものであるといいます。

とはいえ神経系そのものが安全さを感じにくくなっているため、簡単には変えられませんが、この本で紹介されている「ソマティック(身体から)なアプローチ」で変えていけるようです。

神経系の発達に問題があるのですから「考え方を変える」「性格を変える」などのアプローチでは改善しにくいです。必要なのは、メンタルの強さではなく神経系をうまく調整し、神経の波を気持ちよく行ったり来たりできることなのです。

日常的にできる対処法

腹側迷走神経系を働かせるために大事なのは、自分で少しずつ快い感じを、味わい、安全である感覚を膨らませていくことであるようです。

たとえば、人は散歩に行くだけでも腹側迷走神経系を優位にできるといいます。これは、人間が長距離あるく生活を長年してきたためであるようです。

この点については、下記の本などでも説明されていたので、こちらもご参考に。

他にも、下記のような対処法が紹介されています。

  • 自然に触れる、自然の音を聞く
  • 神経系で今ここを感じる
  • 神社仏閣など崇敬の念を感じる場所に行く
  • 動物と遊ぶ
  • ヨガ、ダンス、スポーツなど運動全般。特にゆっくりとスムーズに動くこと。先生を見て真似することなども、協働調整になる。
  • 笑うこと。発達性トラウマで笑いを失ってしまった人は、後から埋め合わせること。コメディ、落語などでも。人と話して笑い合うことでも、安全の感覚が得られる。
  • 歌うこと。歌うときはゆっくり長く吐くため腹側迷走神経系に影響を与える。
  • 聴くこと。会話を楽しむこと。
  • 食事、腸内細菌に気をつける。繊維質、オメガ3脂肪酸(あまに油など)をとる。オメガ6は避ける。薬を多用しない。
  • 自律訓練法で自律神経を整える。
  • タッチする。マッサージを受ける、自分で自分を触る、さする。社会的な交流と深く関係する脳の部分が刺激される。

さらに、この本ではソマティック(身体的)なセラピーを受けることも推奨されています。ロルフィング、アレクサンダーテクニーク、フェルデンクライスなどのことのようです。

より詳細な行動の方法については、ぜひこの本を読んで実践してみてください。

散歩や運動など、対処法だけ見るとありきたりに見えるかもしれませんが、ポリヴェーガル理論に裏打ちされた考え方がありますので、読んで理解した上で行動することをおすすめします。

また、以下の本ではより詳しくセルフ・エクササイズなどについて説明されていますので、こちらもおすすめです。

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