発達障害

『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)の要約・感想

2021年8月16日

アスペルガー症候群とは

仕事関係の情報収集のため、岡田尊司『アスペルガー症候群』(幻冬舎新書)を読みました。

アスペルガー症候群は、いわゆる「アスペ」と揶揄するように使われたり、小説や映画の中でも特異なキャラクターとしてアスペルガー症候群っぽい人間が登場したりしている一方で、正しく理解されていることは少ないのではないかと思います。

この本は、アスペルガー症候群について簡潔に要点がまとまっており、入門書として良いものだと思いました。

近年はアスペルガー症候群という名称よりASDと呼ばれることが多いようですが、この記事では本の内容に合わせてアスペルガー症候群という名称で統一しています。

また、近年では関係がないと言われているような特徴(頭が大きいなど)も含まれていることから、若干内容は古くなっているのかもしれませんが、それを差し引いても基本的な内容が網羅されているため、良い本だと思います。

この本を読んで学んだことを簡単にまとめます。

1章:『アスペルガー症候群』の要約

1-1:アスペルガーの3つのタイプ

アスペルガー症候群には、以下の3つのタイプがある。

(1)積極奇異型

周りのことにおかまいなしに、好奇心のまま積極的に活動する。年を取るほど周りの目に気づき、自分を抑えるようになる。

(2)受動型

人に対して消極的で、相手のアプローチで関係が成り立つ。おとなしい、やさしいと思われる。

(3)孤立型

周囲への関心自体が乏しい。

これらに共通するのは、1つが対人関係が不器用であるということである。特に、相互的な関係が乏しい。また、体の動きや表情が変、ぎこちないということもある。

もう1つが、強いこだわりを持つということである。マニアックな領域を追求することがある。

1-2:アスペルガーの症状

(1)社会性の障害

孤立的にふるまう。相互応答性の障害などがある。これは、相手からの感情を受け取らなかったり、非言語的コミュニケーションが苦手である、という特徴がある。そのため、とっつきにくかったり、逆になれなれしかったりする。そのため、親密な関係が生まれにくい。

また、友人関係を求めない、関係に疲れるというものもある。

社会性の障害は、相手の感情、気持ちが分かりにくいというのが原因である。これは、「心の理論」の発達に遅れがあるからである。人を傷つけたりしやすい。人の気持ちが分かるためには、心で分かること(情動的共感)と、頭で分かること(認知的共感)がある。アスペルガーの場合は、情動的共感が弱く、心で響き合うということがない。言葉を交わさずに分かり合うということができない。

そして、お人好しで騙されやすい場合もあれば、表情は乏しいが人の心を操れるという場合もあり、タイプはさまざまである。

その他の社会性の障害としては、人の顔、表情が分からないとか、暗黙のルールや前後の文脈を理解できないということもあり、それが原因で非常識なことをしてしまうこともある。

(2)コミュニケーションの障害

アスペルガー症候群では、言語発達は正常でもコミュニケーションが苦手であるということがある。一方的にしゃべってしまう、相手の言うことを理解する力が弱い、自分の発言にコメントされたときにすぐに対応できない、といった特徴がある。

コミュニケーションの障害であるため、難しいことを良く知っているのに、日常的な会話が苦手である。また文章は書けてもスピーチができないことも多く、これは全体的な視点での統合力が弱く、枝葉に注意が奪われやすいためである。

さらに、冗談が通じにくいということもある。また、ごっこ遊びは想像が必要で苦手であることもあるが、創造遊びに没頭するタイプもいる。

また、自分の感情・感覚も理解しにくいのが特徴である。自分の気持ち、苦しさが分からない。適切な休憩が取れず、うつなどになるまで追い込んでしまう、といったことがある。

(3)反復的行動、狭い興味

アスペルガー症候群の人は、同じ行動やパターンへの固執がある。また、持続的なうらみを持つこともある。これは、「注意の転動性」が低く切り替わりにくいからである。

この具体的な症状としては、以下のことがある。

  • ①同じであることを求める、反復する。変化に弱い。
  • ➁並べる、分類するが得意。
  • ③常同行動がある。成長するほど複雑な生活パターンになる。
  • ④自分の主張を曲げない。頑固。
  • ⑤ルーチンワークに耐えられる。妥協しない一方、柔軟さに欠ける。
  • ⑥狭い領域への関心、熱中。実用性と関係がなく、人よりモノに興味を持つ。
  • ⑦秩序、ルールが好き。整理、分類したがる。秩序を作ることに安心する。システム化の才能があり、新しい体系を生み出す力がある。
  • ⑧細部へのこだわり。普通の人が見落とす細部を見つけ、区別、分類する力がある。

(4)その他の問題

その他に、下記のような特徴がある。

  • ①感覚が繊細。それゆえ、並行処理ができない、選択的に注意を向けられないということにもなる。
  • ➁動きがぎこちない。球技、団体競技が特に苦手。状況に応じたコミュニケーションの遅れ。
  • ③顔立ちが綺麗。頭が大きい。
  • ④整理整頓が苦手。段取りが悪い。これは実行機能の弱さである。
  • ⑤感情のコントロールが弱く、癇癪やパニックになりやすい。
  • ⑥想像遊び、空想を好む。クリエイターに向いている。
  • ⑦子どものころ、ADHDと診断されることがある。自分の関心に注意を奪われる、外からの刺激に弱いといった症状があるため。
  • ⑧不安、うつを抱えやすい。
  • ⑨自閉症との違いは、言語、知能の遅れがないこと。

1-3:アスペルガー症候群の脳とは

アスペルガー症候群の脳には、偏桃体の異常がある場合がある。

アスペルガー症候群の人の脳は、普通の人より大きい場合が多い。具体的には、モノを扱う所が大きい。

自閉症の人は、血中セロトニンが多い人が多い。男性脳的である。男性脳とはシステムタイプの脳である。

1-4:アスペルガー症候群の増加

アスペルガー症候群、自閉症スペクトラムは、遺伝的、器質的要因が強い。アスペルガー症候群は、ほどよくあると強みとして発揮することができる。そのため、現代では有利で、優秀な軽度のアスペルガー同士で結婚して増えているのではないか、とも考えられる。

また、特定の遺伝子が、特定の環境かで発現されているためとの考えられる(エピジェネティクス)。

さらに、心理社会的影響も考えられる。つまり、虐待やネグレクト、現代っ子特有の情報・ストレスの問題から、遺伝子が発現してアスペルガー症候群になっている可能性である。

1-5:アスペルガー症候群のパーソナリティタイプ

積極型、受動型といった基本的なタイプは、成長するにつれて下記のように複雑に変化する。

  • ①シゾイド(他人に興味がない)
  • ➁回避型(傷つくことを恐れる)、受動的な人生を目立たずに送ろうとする。
  • ③スキゾタイプ(発想豊か、変わり者)
  • ④強迫性タイプ(細部にこだわる)
  • ⑤自己愛タイプ(自分大好き)、誇大な万能感、超人的な人への憧れ。愛情不足などいびつな環境で育ったタイプ。
  • ⑥境界性タイプ。アイデンティティが揺らぐ。根深い自己否定、解離症状など。
  • ⑦妄想性タイプ(思い込みに囚われる)。否定、いじめを受けてきた人。他者を不快なものと考える。

1-6:アスペルガー症候群と付き合う

アスペルガー症候群の人は、一定のルール、リズムがあると快適に、高い生産性を維持できる。そのため、言外のルールを周囲が教えてあげると良い。

また、聞き取りの能力が弱いため、視覚化することが大事。

過敏性にも配慮する。

変化に弱いため、環境が変化する時期は、周囲のサポートがいる。

「このタイプの人の能力を活かすには、あまり環境を変え過ぎず、同じポジションでじっくり一つの分野や仕事に長く取り組ませるのが、生産性を高く維持するコツである。」

アスペルガー症候群の人の、日常的な側面の特徴。

  • ①時間にルーズか、極めて厳格かのどちらか。
  • ➁助けを求めるのが苦手。大人はそれゆえにうつ、不安障害になることも。
  • ③マネジメントが苦手。リーダー的役割を果たす中で、円熟する場合もある。そのためには、うまくいくシステムを作ることが大事。
  • ④マルチタスク、総合的な仕事が苦手。これは統合能力の欠如である。それゆえ、文字や図を使って視覚化して考えることが大事。

1-7:アスペルガー症候群の力を伸ばすには

もっとも大事なのは、安心感と自己肯定感を持たせることである。アスペルガー症候群の人は、子ども時代から失敗体験が多く、不安を持っている、自己肯定感がないということが多い。そのため、周囲は良い所を探し、「普通」を押し付けないことが大事。

厳しすぎるしつけ、強制は反発や不安を強めるためいいことがまったくない。長所、特性を引き出すこと、主体性を引き出すことが大事。

実行能力の弱さは社会に出てから弱みとなるため、日課を作る、刺激がないように過ごす、チェックリストやスケジュール帳を工夫する、集中しやすい環境を作るなど、工夫が必要。

1-8:アスペルガー症候群の強み

アスペは、めぐまれた人生のために、いきがいとなる仕事や趣味を見つけることが大事。「平均的」を目指さないこと、ユニークな特性を活かすことが大事である。

  • ①高い言語能力、論理性
  • ➁記憶力、豊富な知識
  • ③視覚的処理能力
  • ④物への純粋な関心
  • ⑤空想力
  • ⑥秩序、規則を愛する
  • ⑦強くゆるぎない信念
  • ⑧持続する関心、情熱
  • ⑨孤立、単調な生活に強い
  • ⑩欲、感情におぼれない

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2章:『アスペルガー症候群』の感想

この本からは、アスペルガー症候群の基本的なことについて網羅的に知ることができました。

アスペルガー症候群と診断された知り合いもおり、また診断されていなくても、かなり近い特徴を持つ人も身近にいます。アスペルガー症候群のような発達障害の問題が社会の中でも大きくクローズアップされるようになったのは、社会(仕事、生活様式、コミュニケーションのあり方など)の変化が背景にあると思いますが、誰にとっても無関係ではないテーマになってきているのだな、と思います。

興味のある方はぜひ読んでみてください。

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