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宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』の要約・感想

2021年4月24日

『ケーキの切れない非行少年たち』の内容・要約

近年、非常に話題になった本がこの『ケーキの切れない非行少年たち』だ。

著者は、精神科病院や医療少年院に勤務する経験から、多くの非行少年たちが、何らかの認知機能の問題を抱えていること、そしてそれがそれまでの彼ら・彼女らの人生の中では明らかにならず、少年院に入ってから明らかになっている、という状況が分かってきたという。

著者が医療少年院の現場で見たのは、狂暴で手が付けられない子どもたちではなく、人懐っこくて、しかし下記のように、認知機能に問題を抱えた子どもたちだったという(23-24頁)。

  • 簡単な足し算、引き算ができない
  • 漢字が読めない
  • 簡単な図形を写せない
  • 短い文章すら復唱できない

端的にいうと、基本的な認知機能が、一般的なレベルに大きく達していない。

「見る力、聞く力、見えないものを想像すつ力がとても弱く、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、イジメに遭ったりしていたのです。それが非行の原因にもなっていることを知ったのです。」(24頁)

その問題は、勉強についていけないだけではない。相手の気持ちがわからずコミュニケーションがうまくいかない。自分の感情も分からない。

「こういった子どもたちは何か不快なことがあると心の中でモヤモヤしますが、いったい自分の心の中で何が起きているのか、どんな感情が生じているのかが理解できず、このモヤモヤが蓄積しやがてストレスへと変わっていきます。」(58頁)

こうしたことが積み重なり、周りには理解されず、感情の抑制が効かなくなる。また、周りから「変な奴」としか認められないために、少しずつ過激な行動に走るようになる。

それが、非行に繋がっていく。

非行、犯罪に走る人たちの一部に、発達障害や知的障害、精神疾患が見られることなどは、過去にも書いてきた著作があったと思う。しかし、このように少年院に来る非行少年の中の、本当に多くに、「みる」「きく」という基本的な認知機能の問題が見られることを、実体験をもとに書かれた著作は少なかったのではないか。

さらに、問題は、非行少年たちに基本的な認知機能の問題があるのなら、「反省させる」「社会に適応させる」といったことをさせようとしても、根本の認知機能の問題がそのままでは、本当の問題の解決にはならないこと。認知機能の改善から対処しなければ、再び犯罪に走ってしまう可能性があることである。

著者は、非行を減らすためには、まずは認知機能を鍛えることからしっかり行わなければならないと主張し、この本の後半では具体的な鍛え方についても解説されている。

非行に走る子どもたちに、認知機能のトレーニングを行い再犯させず、まともに働く社会人として社会の役に立っていくことができる。

非行、犯罪という問題は、多くの人にとっては行政や専門家に任せてしまいたい問題であり、「ちゃんと罰してほしい」「更生させて生活を脅かさないでほしい」という問題であると思う。

しかし、その現場で行われている対策が、実は十分なものでなかったとすれば、それは他人任せで良い問題ではなくなる。

認知の機能に関する問題(発達障害や知的障害、境界知能など)は、犯罪の関わりのない一般人にとっても、近年特に問題になっていることである。社会がサービス産業、知識産業中心にシフトし、定型的な業務はロボットやAIが行うようになった。そのため、人間はこれから、より創造的な能力を発揮していく時代になる。このような議論はすでに多く見られるものとなった。

このような社会においては、前近代では大きな問題にはならなかったであろう認知機能の差異による、能力の差異が、拡大されてしまう。

そのために、社会では「うつ」「適応障害」といった疾患が増え、教育現場で落ちこぼれた子どもたちの中からは、非行に走る子どもたちも増えてしまう。

こうした社会の大勢を、多くの人が実感するようになったからこそ、このようなテーマの本が人口に膾炙したのではないか。

いずれにしろ、このような子どもたちがいることをまずは知ることが重要である。

また、自分の身の回りでも同様の子どもがいるかもしれず、その場合は単に問題そのものを解決しようとしても解決しない。認知機能に問題化ないか適切な検査を受け、鍛えていくことが重要になってくる。

こういった意味でも、多くの人が読むべき本であると思った。

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