発達障害

『発達障害のいま』(講談社現代新書)の要約・感想

2021年7月29日

発達障害のいまの要約・感想

『発達障害のいま』(講談社現代新書)は、発達障害の現状や主な症状、なぜ問題になっているかといった、基本的な内容を学ぶのにいい内容でした。入門書として、周りに発達障害の方がいるという方にも、当事者の方にも、「もしかして自分も?」と思ってる方にもおすすめします。

この本の内容を簡単に紹介します。

1章:『発達障害のいま』の要約

1-1:発達障害の昨今の状況

自閉症、発達障害が増加している。

自閉症は1966年には1万人に4人、自閉症グループは1万人に8人。1980年代後半には、1万人に13~20人に増え、21世紀には1万人に40人~80人に増えた。自閉症スペクトラムは1万人に100~200人とされる。

このように増えてきた理由の一つは、診断基準にある。昔は典型的な例しか診断されなかったため、少なかった。また、自閉症スペクトラムのように、部分的に症状を持つグループがその後発見されて、自閉症スペクトラムの範囲が広がった。そのため、自閉症・スペクトラムが増えた。

もう一つの理由は、エピジェネティクスの研究から説明できる。エピジェネティクスの研究から、遺伝的な原因が強い問題も環境の変化で増減することが分かった。遺伝子のスイッチが、環境によってオンになったりオフになったりするためである。そのため、自閉症のような問題も、社会環境が変わることで増えていると説明できる。

さらに、自閉症スペクトラムのような認知の問題の凹凸は、父の年齢に高さでリスクがあがるため、それによっても増えている可能性がある。

発達障害の素因は、発達凹凸である。そして、発達障害を引き起こす因子は、心の傷やトラウマである。

下記の本も発達障害が親子の問題から出てくる、という点を解説されていてよい本でした。

1-2:発達障害の診断の問題

著者の考えによると、発達障害=発達凹凸+適応障害。

DSM基準は、原因から特定せず症状から特定するため、原因が違う似た問題に対応できない問題がある。また、基準にギリギリ満たない人を診断できない問題もある。そのため、最近は、現場では患者を取り巻く環境などを詳しく見ていくようになった。

また、自閉症スペクトラムとADHDの併存は多いが、日本では自閉症スペクトラムで診断されることが多い。それは、自閉症スペクトラムの方が社会適応の問題で、重いと考えられるからである。

1-3:自閉症スペクトラムの原因

自閉症スペクトラムの原因は複数考えられる。

  • 偏桃体、小脳の異常:自動作業がやれない。感覚異常。
  • セロトニン異常:気分障害、抑うつ、安静できない。
  • オキシトシンが低い:共感しにくい、社会性が低い。
  • 神経接合の異常:状況に応じた行動、並行した作業、スケジューリングなどに弱い。

1-4:発達凹凸

発達凹凸で天才は多い。

そもそも、人間の認知様式には、下記の2タイプがある。

  • (1)言語による認知。概念形成が得意。
  • (2)言語が苦手で、視覚イメージが得意。こっちが発達凹凸になりやすく、学校教育で遅れやすい。

優秀で、記憶力、操作力に優れ、社会性に少し問題を持っているアスペルガーは多い。

凹凸人は、凹凸を活かすことで優秀になれる。独創性を発揮できる。

1-5:トラウマの問題

トラウマが発達障害を生む因子として大きい。

発達障害を持つ人には、虐待された子が多い。特に知的に高いスペクトラムの子は、虐待されやすい。それは、診断がないまま親が不満を持ちながら教育しようとするためである。

また、自閉症スペクトラムを持つ親も多い。成人の自閉症スペクトラムはうつになりやすく、親がうつだと家庭機能が損なわれる。

虐待の結果、発達障害のような症状が出ている場合もある。虐待の後遺症として出る愛着障害や乖離障害は、発達障害と似た症状がある。

そもそも、人間は親との関係の中で愛着を形成することで、行動をコントロールできるようになる。子が親との関係の中で、内面に親のイメージを作る。これが安心感のイメージとなり子は安定する。これが対人関係の基本であり、情動コントロールの基盤となる。このイメージが形成されないと、問題行動の歯止めが効かなくなる。

虐待された子供は、緊張が常態となる。緊張の中で歪んだ愛着形成をしてしまい、それをその後の人間関係の中でパターン化してしまう。

また、虐待があると、心と体が分かれる(乖離)。自己の意識や他者を鏡につくられるため、親の変化で自己がバラバラになってしまう。

こうした育ちをした結果、非行(行為障害)にもなりやすい。

さらに、愛着形成に問題のある環境は、子は厳しい状況でサバイバルしなければならなくなるため、この遺伝子にスイッチが入るとも考えられる(エピジェネティクスの仮説)。

1-6:発達障害とトラウマ

ADHDに虐待などの子育て不全があると、非行(行為障害)になりやすい。

自閉症スペクトラムの場合のトラウマの問題は下記である。

  • (1)普通にしていても怖い世界が広がっている(感覚過敏や、部分に囚われやすいため)
  • (2)タイムスリップという、普通なら忘れてしまうようなことを忘れられず、再現してしまう
  • (3)虐待されることが多く、トラウマになっている

自閉症スペクトラムに見られる行動の理由。

  • (1)常同行為、同一性への固執→安心を得るため
  • (2)タイムトリップ:トラウマのフラッシュバッグと同じ。時間が経って、後から苦しむことが多い。過敏性と怖い体験の記憶が絡むことでフラッシュバッグしてしまう。

自閉症スペクトラムの人は、現在と過去が混在するモザイク状の体験世界を生きている。過去は過去として区別する訓練などが必要。

1-7:発達障害×精神疾患の問題

発達障害をめぐる一般的な言説には、下記を混在している問題がある

(1)発達障害×精神疾患

自閉症スペクトラムは、あらゆる精神疾患と併存する。

  • ①不登校、引きこもり
    自閉症スペクトラムの未診断が多い。自閉症スペクトラムは社会性のハンディキャップがあるため、改善のために学校に通うことが重要で、放置すると社会性が身につかない。
    自閉症スペクトラムの不登校理由としては、「カリキュラムが合わない」「いじめ」「嫌なことはやりたくない」などがある。引きこもりになりやすい。
  • ➁選択制緘黙
  • ③痩せ症
  • ④強迫性障害
  • ⑤うつ病と双極性障害
    自閉症スペクトラムとうつ病は併発しやすい。これらの精神疾患の根本には気分の上下がある。自閉症スペクトラムは、セロトニン系が脆弱であるため気分変調になりやすい。
    さらに、虐待があると自閉症スペクトラムと双極性障害が併存しやすい。自閉症スペクトラムは、感情の調整機能が弱いが、それに虐待の強いゆさぶりが加わることで、気分障害になりやすい。
  • ⑥統合失調症
    自閉症スペクトラムと混同されやすい。

(2)未診断の大人の発達障害

未診断の発達障害、発達凹凸は、混同しないことが重要。発達凹凸は、才能になることもある。基本的に、凹凸があるだけなら治療などは必要なく、凹凸が強いなら特性に合わせた教育を行うことで才能が伸ばせる。

発達凹凸の人は、健常人とは異なるバイパスを作って適応していることがある。そこで「誤学習」することがあるため、注意が必要である。つまり、社会性を身に付けるために、無理に環境に飛び込んでいたり、間違ったコミュニケーションのパターンを覚えていたりする。

未診断の凹凸に多いものとしては、下記がある。

①2つのことが同時にできない

➁予定の変更ができない。また、それに気づいて綿密なスケジュールを立てるようになる。

③スケジュール管理ができない。そのために過剰に手帳を書き込む人も。

④整理整頓ができない。また、克服しようとして強迫的に行う人も。

⑤興味の偏りが激しい

⑥細かなことにこだわる

⑦人の気持ちが読めない。それに気づき、過剰に気にする人も。

⑧過敏性

⑨精神疾患になっている

⑩クレーマーになる。情緒的なやりとりができなかったために、被害的になっている場合も。

1-8:本人の対処法

当事者は、下記の対処法を取ることが大事である。

  • 自分の凹凸に気づくこと。
  • 代償行動となっていることを見つけ出すこと。過剰代償で自分を傷つけていないか。
  • 問題が大きいなら認知行動療法を受けること。

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2章:『発達障害のいま』の感想

『発達障害のいま』は、発達障害の最新の状況や原因、症状、対処法などに関する研究成果について、非専門である人間が学ぶのに適した本でした。

他の入門書に書かれている内容もありますが、網羅的に広く解説されている点で、良い本です。

ぜひ読んでみてください。

この本の著者の主張は、「発達凹凸は才能である」という前向きな部分があるため、当事者の方も希望を持てるのではないでしょうか。

実際、発達凹凸で活躍されている人は多く、シリコンバレーでは発達凹凸・発達障害の方が多くIT関係の職で活躍されているため、シリコンバレー症候群とすら呼ばれているようです。

論理や秩序にこだわりを持ち、特定の知識に没頭して専門家になりやすい発達凹凸の方は、はまる所に行けば活躍できるようです。

この本から基本的な知識を得れば、より詳しい専門書も読めるようになるはずです。

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