練習・トレーニング

身体の多様な動きを鍛えることが健康にも競技の基礎にも大事

この記事では、身体の多様な動きを鍛えることがどのような人にも大事である、という今の自分が持つ仮説を述べています。

自らの武道の経験や、剣術教室で指導してきた経験から、現代人が古の武術家の技を身につけるためには、単に技の訓練だけを行えばいいわけではないのではないか、と思うようになりました。

武術的な技というのは、いわば人間としての動きの発達の頂点にあるような高度かつ複雑なものです。

その高度な技を身に着けるためには、それ以前の段階にある人間としての多様な機能を発達させていること、その機能を保持的でいることが重要である、というのが現在の私の考えです。

つまり、武術の技(スポーツ競技の技術も同様ですが)を動きの技術の頂点にあるものとすれば、その土台にあるのが、ヒトとしての多様な機能であるという考えです。

その多様な機能の発達・維持をおろそかにしたまま高度な技術ばかり練習していると、技術のレベルがあるところで頭打ちになったり、怪我や不調に繋がったりするのではないかと思います。

この記事では、身体の多様な動きを鍛える重要性について解説します。

1章:人間が正常に発達するためには、進化の過程で獲得した動きをたどり返す必要がある

1-1:進化の歴史のたどり返しとは

そもそも、人間がヒトとして正常な機能を備える上で、進化の過程で獲得してきた動きをたどり返す必要がある、と考えられます。

この考えは武道理論家である南郷継正氏による「生命史観」からの学びで分かったことです。

こちらの記事でも、南郷継正氏からの学びについて書いています。

簡単に言えば、人間は単細胞生物から多細胞生物へ、そして多細胞生物になってからも、ただ漂うだけのクラゲ的な生物→水中を激しく移動する魚類→陸に上がった両生類→陸上で激しく運動する哺乳類→樹上生活という三次元の生活をするようになったサル、という段階を経てヒトへと進化してきた、ということです。

この進化の歴史を、個々人が誕生から成長の中でたどり返さなければ、正常な機能が獲得できない可能性がある、と私は考えています。言い換えれば、このような進化の歴史をたどり返す運動・発達の過程をしっかり持つことが、スポーツや武道のような高度な身体的技術を獲得する上での基礎になる、ということです。

1-2:発達の抜けは発達障害になる

「進化の歴史と、人間の個人としての成長に何の関係があるの?」という疑問もあるかもしれません。この疑問に直接答えることは、この記事の内容を超えるため簡単にしか書きませんが、進化の歴史をたどり返さなかった場合は、発達障害になることも分かってきています。

いわゆる「発達の抜け」と言われるものです。

発達の抜けとは、赤ちゃんの寝返り、はいはい、つかまり立ち、歩き、という成長過程の中で十分に行わなかった動きがあった場合に、原始反射(生まれつきもっている反射で、成長の過程でなくなっていくもの)が統合されず、発達障害的な特徴が出てくるというものです。

原始反射の統合が不十分だと、体に力が入りにくく姿勢が悪かったり、多動であったり、常に緊張していたり、集中力がなかったり、常に不安があって精神的に不安定になったり、とさまざまな問題に繋がります。これらは発達障害の特徴でもあるのです。

発達障害についての学びは、こちらのカテゴリにまとめています。また、原始反射などについて、詳しくは下記の本を読んでみてください。

そのため、発達障害児に対しては、昨今は体育・エクササイズ的なアプローチによって、その状態を改善する試みも増えているようです。

このように、赤ちゃんの成長のためには、正常な発達のための過程をしっかりと踏まえる必要がある、ということが分かってきているのです。

この正常発達の過程は、人間の進化の過程をたどり返すものであるのだろう、というのが私の把握です。

この点については、下記の本にも近いことが書いてありますし、前述の南郷継正氏の「夢講義シリーズ」などを読むと論理的に理解できると思います。

ここまで書いたように、人間は心身の健康のためにも、より高度な身体的技術(スポーツや武道)を行うためにも、正常な発達のプロセスをたどる必要があるのです。

ここまで読むと「それは子どもの成長のために必要なもので、大人には関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、実は大人にも必要なのではないか、というのが私の考えです。

この点について、これから説明します。

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2章:健康のためにも、より高度な動きのベースとしても、多様な動きの機能を保持することが必要

ヒトとなるまで進化の過程で獲得してきたさまざまな機能について、子ども時代の成長の中でたどり返すことが重要であると説明しました。

そして、ヒトとしての多様な機能の能力を大人になっても維持、発展させることも大事だと考えています。

2-1:現代人の生活では身体機能を一部しか使わない

そもそも、ヒトとしての多様な機能は普通の生活をしていれば衰えてしまうものです。現代人の生活様式は、この数十年ほどで、身体を使わない方向に急速に発展したからです。

ぜひ自分の生活スタイルを思い出していただきたいのですが、

  • 仕事はパソコンに向かって、何時間も座り続けながら行っている
  • 帰ってからもスマホの画面などを見続けている
  • 掃除や洗濯も便利な家電に任せっきり

といった状態が普通ではないでしょうか?

肉体労働をしているという場合もあるかもしれませんが、肉体労働であっても、体の動かし方はその仕事の内容や使う道具などによって大きく規定されており、自然なものとは異なるのです。

現代社会で原始時代のような身体を使った生活を行うことは現実的ではありません。また、子供時代のように毎日体を使って遊びまわって生活している大人もいないでしょう。

そのため、多くの大人は自分の身体を限定的にしか使わずに生活しているのです。

「ジムで鍛えたり、スポーツをして運動している」という方もいるかもしれません。このような方も、一見、身体をしっかり使っているように見えます。

しかし、ジムでの運動はトレーニング器具によって動きが規定されており、特にウエイトトレーニングの多くは一部の筋肉のみにフォーカスした不自然な動きです。

スポーツも、多くは人間が競技として発展させてきたものですから、その動きは自然なものとは言えません。これは武道でも同じことで、多くのトレーニングや競技、武道は、人の身体の機能を限定的にしか使えないものになっています。

これは、人間がそれだけ文明社会を発展させ、スポーツや武道という文化を発展させてきたからです。進化の過程で獲得してきた多様な機能を使わなくなっているのは、文明の発展の裏返しであると言えます。

2-2:身体機能を限定的にしか使わないことが様々な不調につながる

しかし、このように身体の機能を限定的にしか使わないことを繰り返していけば、人間の身体は様々な不調を起こしてしまいます。

それがスポーツやトレーニング、武道を長期間続けることで起こってしまう腰や膝、股関節、手首や足首、背中といった部位の怪我です。

特に高いレベルを目指して鍛えてきた人ほど、若いうちから身体の不調に悩まされることが多いです。

それだけ、身体の一部の機能だけを酷使してしまっているということなのです。

スポーツやトレーニングをしていなくても、日常生活の姿勢や動きが悪いことによる様々な部位の痛みや可動制限で悩まされている方も少なくないでしょう。

これも日常生活における運動が、人間の機能を限定的にしか使わないことによるものと言えます。

武道と怪我については、こちらの記事でも簡単に書きました。

2-3:健康維持や怪我の防止、より高度な技術の獲得のために多様な動きを維持することが大事

日常生活やスポーツ、トレーニングなどで身体の機能を限定的にしか使わないことの問題点を説明しました。

それでは、日常生活での健康維持や、スポーツや武道での怪我の防止のためには、何をしたらいいのでしょうか?

私の考えとしては、人が進化の過程で獲得してきた多様な身体の機能を、大人になっても維持し、続けることが重要であると考えています。

これが、日常生活上の健康維持のためにも、競技力の向上のためにも、必要なのです。

身近な取り入れ方としては、その競技の技術練習だけを行うのではなく、身体を多様に動かすトレーニングを毎日のメニューに取り入れる、といったことが考えられます。

ヨガやピラティスは非常に身近で有力なトレーニングです。また、私が取り入れているアニマルフローも、非常に有効であると考えています。

アニマルフローについて詳しくはこちら。

私の場合は、自分の健康や武術的な実力の維持発展、そして怪我の防止のために、アニマルフローやピラティスに加えて様々なトレーニングを取り入れて実践しています。

このような取り組みは、健康に悩まされている多くの方にも、スポーツや武道をより長く楽しみたいという方にも、必須のものであると考えています。

3章:スポーツや武道の技術は多様なヒトの機能をベースにしたものである

ここまでの内容を整理すると以下の図のようになります。

武道・武術とヒトの多様な動き

このように、スポーツや武道で使われるような高度な技術は、人としての多様な身体機能あってこそのものであると思うのです。

そのため、私のような古流の剣術を専門とする者であっても、その流派の型や技の鍛練だけをやるのではなく、人間の運動をより広く捉えてトレーニングを考えることが重要なのです。

スポーツの世界では、すでにそのような観点からトレーニング方法が取り入れられているように思います。

しかし、武道の分野では伝統的な鍛練法を重視しすぎる余り、新しいトレーニングを取り入れるということに消極的であるように感じます。

もちろん何でもかんでも取り入れればいいというわけではありませんが、社会の大きな変化の中で、現代人の生活様式が変わり、身体機能の使い方が変わってきていること、そして、武道を習いに来る多くの人はそのような現代的な生活をしているのだということ、これをしっかりと把握した上で、指導者は、トレーニング方法を考えていかなければならないと思います。

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