武道・文化の課題

「達人は人格者ではない」心の強さと倫理観は別問題だということ

2018年10月18日

武道と人格

最近、とある武道家の本を読みました。

その本では、武道の達人というと聖人君子であるように思われるが、その達人は「達人は人格者じゃない」と言い切っていました。

私はこの本を読んで、一瞬「そうか?」思いました。

私は武道を正しく鍛練すれば心を鍛え、どんな状況にも動揺しない心を身につけることができるとこのblogでも主張していますし、今もそう考えているからです。

しかし、迷ったのは一瞬でした。

私の考えと、この武道家の考えは矛盾しないと気付いたからです。

武道教育で鍛える心とは何か

一般的に、武道を通じて心が鍛えられ思いやりのある人間になれると考えられていることがあります。

武道を極めると侍のような、誠実、真面目、謙虚な人間になるというように。それを期待して、子供に武道を習わせる親も多いのでしょう。

しかし、この「心」に対する考え方は、大きく2つのものが混ざっているように思います。それは、動揺しないという意味での心の強さと、人格=道徳心です。

私が考える心の強さは、どんな状況にも動揺せず正常心でいられる心のことです。これは、正しい努力をして武道を極めれば誰もが身につけられるものだと思います。

しかし、一般的にはここに「道徳心」を加えて、心が鍛えられると考えられがちです。つまり、武道を極めれば、真面目で誠実、謙虚な人間になるということです。

確かに、武道を極める過程でそうした心を獲得していく人もいると思いますが、単に動揺しないという意味での心の強さしか身につかない人もいます。つまり、武道の修業と道徳心の獲得は無関係ではないかと思います。

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武道が精神修養になると考えられるようになった理由

私は、武道家の強さに人格は関係ないと考えます。

では、なぜ武道を極めると人格面でも優れた人間になると考えられるようになったのでしょうか?

一つは、平和な江戸時代に、武士の規範として儒教を柱とした武士道が成立し、武士は武道の修業・修行を通じて武士道を獲得することが目指されたこと。

もう一つは、日本が近代国家化する中で、武道の役割に精神修養や教育的な価値が加えられるようになったこと。このような時代の中での変化があり、徐々に武道に精神修養的な価値があると言われるようになったようです。

大きな流れで見ると、戦闘が日常から離れ、武道を学ぶ意義が時代の変遷と共に変わり、武道を学ぶ意義が徐々に精神的なものにフォーカスされるようになった、ということです。

また、単に武道をスポーツと同じように学んでも、体力的に辛い練習に耐えることや体育会系的な上下関係の中で、実際に人格面も磨かれる事実があったことも、武道が精神修養になると考えられるようになった一面にあると思います。

しかし、武道の本質はあくまで戦闘=殺し合いですので、本質的には武道と人格面の成長は関係ないでしょう。そのため「達人は人格者じゃない」は正しく、また武道を通じて心を鍛えることができる、というのもまた正しいのです。

武道家は人格を磨くべきか

ここで、最初の「武道家は人格者じゃない」という言説に立ち返ってみたいと思います。

私は、単に強さを追い求めるだけならば、武道家は人格者を目指す必要はないと思います。強さの追求と人格は関係ないからです。

しかし、武道を、単に武技の追求としてではなく、自分の人生に役立てたい、実生活に役立てたい、武道を通じて人間的に成長したいという人も多いと思います。

私もその一人です。

現代では、単に武道家として強くなりたいという人よりも「武道を通して人間的に成長したい」というニーズが大きいのではないでしょうか。私は、このような時代のニーズに応えるためにも、現代の武道家は武道を通じて人格的な成長も目指すべきではないかと考えています。

自分が武道を通じて人間的に成長した経験がなければ、人にも指導することができないからです。

こんな時代だからこそ人格を磨くべき

私は、現代だからこそ武道を通じて人格を磨くこと、人間的に成長することに意味があると思います。

私の価値観が少し古いのかもしれませんが、現代人は「露悪家」にすぎ、合理的な判断を優先して自らの規範を持っていないように感じます。

必要以上に保守的になる必要はありませんが、日本が伝統的に創り上げてきた精神面の遺産を、現代人はまったく継承していないのではないのでしょうか。

日本人の伝統的な価値観(協調性を重視しすぎる、など)が、グローバル社会に合っていないことが指摘されるようになって久しいです。確かに、もう時代に合わない価値観、考え方も多いとは思います。

しかし、大事なのはその中から現代でも価値があるものをすくい取り、活かしていくことではないでしょうか。

私は、武道を通じて、日本人が残してきた、現代でも十分価値がある精神性を探究していきたいと考えています。

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