「武道の稽古で腰痛になった原因・理由が知りたい」
「武道の稽古による腰痛を改善・予防する方法を知りたい」
この記事はこんな方に向けて書いています。
剣道・空手・柔道をはじめとする武道の稽古は、適切に行えばより身体を元気に、機能的にしていけるものです。
しかし、間違った稽古法を行っていたり、指導者が間違った知識から指導していたために、腰痛をはじめとする不調に悩まされる方が少なくありません。
武道における腰痛は予防できますし、腰痛になっても改善可能です。
そこでこの記事では、
- 武道の稽古で腰痛になる原因
- 武道の稽古における腰痛の予防方法
- 武道の稽古で腰痛になった時の対処法
などについて解説します。
知りたいところから読んで、参考にしてみてください。
1章:剣道・空手・柔道などで腰痛になる原因
武道の稽古で腰痛になる原因には、
- そもそも腰(腰椎)は痛めやすい部位であるため
- 腰を使って、身体の構造上間違った動きをしてしまうため
といったものがあります。
これから解説していきます。
武道の稽古において腰痛を予防する方法などについては、2章以降をお読みください。
1-1:腰(腰椎)は痛めやすい部位
繰り返しになりますが、そもそも腰(腰椎)は痛めやすい部位です。
特に、剣道・空手・柔道といった武道や格闘技などの激しい攻防が行われる競技においては、腰にかかる負担は非常に大きくなります。
その理由は大きく2つあります。
①腰の構造の問題
人間は二足歩行するようになったため、上半身の重みや運動時に生まれたエネルギーの負荷が腰にかかるようになっています。
しかも、腰の部分には肋骨がなく、骨の構造としては背骨しかありません。それ以外には、柔らかい内臓と腹筋などの筋肉があるのみです。
体幹部全体を見ると、上の方には肩甲骨や肋骨がある一方、腰の部分には骨がなく、その分、骨によって身体を安定させる機構が少ないのです。
そのため、激しい運動ではもちろんのこと、座ったり立ったりしているだけでも、腰(腰椎)には大きな負担がかかっているのです。
➁武道の競技上の問題
ただの日常動作でも多くの負荷がかかる腰(腰椎)ですが、武道ではさらなる負担がかかります。
たとえば剣道では、腕を使って竹刀を振り相手に打ち付けますし、空手なら拳を使って相手を突き、柔道は腕を使って相手と組み合います。
このような運動で相手を攻撃すると、相手からの反力が自分の身体に返ってきます。
つまり、衝撃は腕から体幹に伝わるのです。まず体幹部の上部に衝撃が加わり、それが全身に伝わります。
この体幹部への衝撃を単純化してとらえると、以下の図のようになります。
つまり体幹上部に回転のエネルギーが加わるため、体幹の下部(腰)には強い負荷がかかるのです。
また、相手の攻撃の衝撃はもちろん、自分の上半身に入ることが多いはずです(ローキックなどは例外ですが)。
相手からの攻撃を受けたときも、たいていは体幹上部に衝撃が加わるため、先ほどの図と同じように腰に大きな負荷がかかります。
③腰への直接の衝撃
これらの①、➁の理由に加えて、剣道・空手・柔道などのコンタクト競技では、腰に直接の衝撃が加わることもあります。
腰に直接衝撃が加わると、
- 背骨の1本1本がずれて神経を圧迫する
- 周囲の筋肉が過度に緊張する
- 背骨の一部が折れる
などの理由からも腰痛になります。
これら①、➁、③などの原因から、武道家の中にはすべり症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などになってしまう方が少なくないのです。
1-2:腰痛の原因になることが多い動き、稽古
ここまでは、腰痛の原因について武道特有の「身体への衝撃」という点から説明しました。しかし、それ以外にも間違った動きをしてしまうことによる腰痛もあります。
1-2-1:急激な回旋動作
そもそも、腰(腰椎)は前後には動きやすい一方で、回旋動作は苦手です。
しかし、剣道・空手・柔道のような激しい動きが求められる競技では、必要以上に腰を回旋させてしまうこともあります。その結果、背骨(椎骨)が本来の位置からずれて腰痛になることがあります。
このような間違った動きは、2章で説明する予防法を実践することで防げます。
1-2-2:姿勢が間違っている
特に剣道・空手の練習者に多く見られますが「いい姿勢」をしようとして、胸を張り、腰を反った姿勢になってしまっている場合があります。
しかし、腰を反ると背骨には負担が大きいです。
特に、腰が反ったままの姿勢から、相手との攻防などでさらに反った形になってしまったり、反ったまま強い負荷が腰にかかってしまうと、腰痛の原因になります。
このような負荷のかけ方を繰り返すと、いずれはひどい腰痛から武道の稽古ができなくなる可能性もありますので、適正な動き・姿勢に修正していくことが重要です。
1-2-3:振り上げる動き
特に剣道において、竹刀を振り上げるときに腰を反ってしまっていることがあります。
これは1-2-2と同じ理由で、腰に負担をかけやすい動きです。
本来、竹刀を振り上げる動きは、肩関節や肩甲骨、肋骨、胸椎の柔軟な動きによって行うもので、腰で行うものではありません。
そのため、竹刀の振り上げで腰を反ってしまう場合も、動きを修正することが重要です。
これらの練習時の動き以外にも、筋トレ、ウエイトトレーニングのやりすぎなどで腰を痛めることもあります。
筋トレについても、やはり間違った姿勢や動きで行ってしまうことで、腰痛になる原因になります。
そのため、これから紹介するような姿勢・動きに修正することで、怪我の防止に取り組むことが大事です。
2章:剣道・空手・柔道などでの腰痛の予防方法
剣道・空手・柔道をはじめとする武道の稽古で、腰痛を予防するには、以下のようなことを意識して稽古することが重要です。
- 背骨を上下に張る意識を持つ
- 胸椎の可動性を上げる
- 肩甲骨の可動性を上げる
- 股関を使えるようにする
順番に説明します。
腰痛になった時の対処法は、3章で説明しています。
2-1:背骨を上下に張る意識を持つ
1章でも触れたように、特に剣道・空手のような武道をする人の一部に「いい姿勢」を意識し過ぎて、腰を普段から反り過ぎているケースがあります。
この反った状態から、動きの中でさらに反ったり、反ったまま回旋しようとしたりして腰痛になることが多いのです。
しかし、腰・背中の筋肉を緊張させると、つい反ってしまうものです。
そこで必要なのが、体幹、特に腰を反らさずに強い姿勢をつくることです。そのためには、体幹に軸をつくり、背骨を上下に張る意識を持つことが大事です。
背骨を上下に伸ばすことで強い姿勢をつくる方法は、一部の武術やバレエ、ピラティスの世界などでも実践されているものです。
背骨を上下に張ることで強い姿勢をつくれるようになると、体幹に衝撃が加わったときも上下に伸びることで耐えられるようになり、腰が反らなくなります。
具体的には、下記のようにトレーニングしてみてください。
■背骨を上下に張って体幹を強くするトレーニング
①床に仰向けで寝っ転がる。
➁踵を下に向かって思いっきり伸ばし、頭を逆に上に向かって伸ばし、背骨が上下に引っ張り合われるようにする(思いっきりやる)。大きく「伸び」をする感じです。
③この姿勢で腰を反らないように、腰と地面の隙間はなくす。もしくは手のひら1枚分くらい以上に空間が空かないようにする。
④首も反らないようにするため、やや顎を引いて、首の後ろ(うなじ)を上へ引き伸ばすように意識する。
⑤この上下への「伸び」を10秒ほどキープし、脱力する。これを繰り返す。
⑥この上下への「伸び」を立った状態などいつでもできるように訓練する。
この背骨を上下に張るトレーニングには、さまざまなバリエーションがありますが、ここでは1つのみ紹介しています。
上記の背骨の張りの意識を、立っている時、動いている時にも維持できるようにすることが大事です。
正しい姿勢について、詳しくは以下の記事でも解説しています。
【正しい姿勢で立つ方法】疲れない・こらない・不調を防ぐ8つのポイント
2-2:胸椎の可動性を上げる
1章でも触れたように、腰椎は前後の動き(丸める、反る)以外の可動性は低いです。そのため、腰椎を動かそうとすると腰痛の原因になります。
しかし、剣道・空手・柔道のような武道の激しい動きの中では、つい身体を動かしたときに腰椎を使ってしまうことも少なくありません。それは、身体はつい動きやすい部分を使ってしまいがちだからです。
逆に言えば、動きにくい部分は、意識して使わなければ、より動きにくく固まっていくことになります。
これを防ぐためには「使うべき部位をちゃんと使えるようにしておく」ことが大事です。
その「使うべき部位」の1つが胸椎です。
胸椎とは、背骨の中での胸にあたる部分で、肋骨とくっついている部分のことです。
胸椎は、肋骨があるためそれほど大きくは動かないとされています。特に上部(首の近く)に近づくほど動きが悪い方が多いです。しかし、大きく動かなくてもある程度は動く状態にしておく必要があります。
胸椎の動きが悪いと、その代償として腰椎を動かし過ぎて腰痛の原因になってしまうからです。
そのため、下記のようなトレーニングを行うことをおすすめします。
■胸椎の可動性を上げるトレーニング
①胸椎を丸め、反る→胸骨や鎖骨の下のあたりを丸め、反る意識
➁胸椎を側屈させる→肋骨の特に脇の下あたりを縮め、伸ばす意識
③胸椎を回旋させる→体幹をねじるストレッチにおいて、意識して胸椎の上の方を回旋させる
いずれも、一般的な体幹を使う(背骨を動かす)ストレッチの中で、意識の仕方を変えてやってみてください。
特に腰椎を動かしてしまう場合は、肋骨の下の方をやや締める意識を持ち、肩甲骨の間あたりの背骨をしっかり動かすように意識してみてください。
2-3:肩甲骨の可動性を上げる
「使うべき部位をちゃんと使えるようにしておく」トレーニングとして、肩甲骨の可動性を上げることも大事です。
そもそも肩甲骨は、肋骨の背中側や横側あたりを滑るように動いて機能します。このように動くことによって、肩関節の動きをより多様にするのです。人間の腕は非常に可動域が広いのですが、その可動域の広さは肩甲骨の自在さに大きく左右されるのです。
そのため、肩甲骨の動きが悪くなると、他の部分で動きを代償しようとします。
腕の動きの場合、
- 肩関節を過度に動かそうとする
- 腰を反ってしまう
といった運動で代償してしまうことが多いです。
そのため、肩甲骨の動きが悪いために、腰を過度に使って動いてしまい腰痛を招いている、ということもあります。
そこで、肩甲骨の可動性を上げる必要があるのです。
具体的には、下記のようなトレーニングをしてみてください。
■肩甲骨の可動性を上げるトレーニング
①四つん這いでのトレーニング
四つん這いになり、肩関節の真下に手を置きます。両腕が平行になるようにしてください。
ここから、肩甲骨を限界まで寄せ、そこから地面を押すようにして体幹を持ち上げます。手は地面についたままです。
こうすると、肩甲骨は肋骨の横の方に移動します。
これを繰り返して、無駄な力を使わずに肩甲骨を大きく動かせるようにしていってください。
➁座ってのトレーニング
イスに座る、もしくは地面にあぐらで座ります(あぐらの場合は、左右の一方に体が傾かないように工夫して座って下さい)。
両手を組んで肘を伸ばし、そのまま頭の真上に持ち上げ、天井に向かって伸ばします。天井に手ができるだけ近づく感じです。
ここから、右手をさらに押し上げます。そして右手の高さをキープしたまま、左手をそれよりさらに持ち上げます。これを交互に5回ずつ行ってください。
すると、限界まで腕が伸び、肩甲骨が上に上がり、体幹が伸びているはずです。この高さから、今度は両手同時に天井にさらに伸ばし、5秒キープして脱力します。
こうして限界まで腕を天井に伸ばすことで、肩甲骨が上に動きやすくなります。
これと近い効果がある簡単な運動に「ぶら下がり」があります。鉄棒などにただぶら下がるだけでも、肩甲骨が上に動きやすくなります。
肩甲骨については「立甲」という方法が話題になったこともあります。立甲については、下記の記事をご覧ください。
2-4:股関節を使えるようにする
武道の稽古での腰痛を予防するためには、股関節を使えるようにすることも大事です。
股関節を使うことで、腰(腰椎)を回旋させようとする癖を修正できるからです。
そもそも、回旋系(体幹を回す、方向転換する)動きをするときに、腰を回そうとしてしまう方が少なくありません。腰を回す方が日常の動きに近く、やりやすいからです。
しかし、腰を回そうとすると腰椎を回旋させてしまい、腰痛の原因になり得ます。
体幹を回す、方向転換するような動きがしたい場合は、腰を回すのではなく、股関節を使った結果、腰が回るようにすることが大事です。
つまり、腰は「回す」のではなく「回る」のだと考えてみてください。
股関節は球状の関節で、可動域が広く周囲の筋肉も強いです。そのため、股関節を使うと、無理なく、効率よく体幹を回すことができるのです。
股関節を使うことで、体幹をひねることなく、体幹を回すことができます。
とはいえ、普段から股関節を意識して使っていなければ、股関節をうまく使って体幹を回旋させる動きができません。
そこで、下記のようなトレーニングをやってみることをおすすめします。
■股関節を使えるようにするトレーニング
①股関節からおじぎをする
古武道の世界では、礼をするときに股関節から折りたたむようにおじぎをします。しかし、この礼の仕方をしない武道も多いようです。この股関節からの礼自体が、股関節を使うトレーニングになっています。
これは、足を骨盤幅で開いて真っすぐ立ち、そこから礼をするときに股関節のみを使い、背中を丸めないようにします(背骨を使わない)。背中が少しでも丸まっていたら失敗であると考えてください。
股関節の裏側(お尻の奥)を後ろに突き出すようにすると、股関節を使いやすいです。
➁片足でおじぎ→スクワット
股関節からのおじぎを、片足立ちで行います。そして、おじぎをした所で上げている方の足を後ろに伸ばし、できるだけ遠くの地面に着地させます。
着地させたときは、両足に均等に体重をかけましょう。
ここから、また足をあげるとどうじに、おじぎの形になり、そこから元の片足立ちに戻ります。これを5回~10回繰り返します。
これらのトレーニングは一例にすぎませんが、重要なのはいろんなトレーニングをすることでも、回数を多くすることでもありません。
胸椎、肩甲骨、股関節などのそれぞれの部位の感覚を鋭くし、コントロール力を高めることです。ぜひ参考にしてみてください。
3章:剣道・空手・柔道などでの腰痛になった時の対処法
ここまで、剣道・空手・柔道などでの腰痛を予防する方法を解説してきました。
しかし「すでに腰痛になってしまった」「腰痛を繰り返す」「慢性腰痛になっている」といった場合は、予防のトレーニングよりもこれから紹介する対処法を実践してください。
3-1:数日は安静にする&病院で検査する
- 腰痛になった直後である。
- ぎっくり腰になった
- どのような姿勢になっても腰が痛い
といった場合は、まずは整形外科に行くことをおすすめします。骨折していたり、筋肉が傷ついている可能性もあるからです。
また、そこまでひどくない場合や、よく腰痛になっていて一時的な痛みであることが分かっている場合などは、痛みがひくまで数日待ってみてください。
そのような腰痛の場合は、数日安静にすることで痛みがひいてきます。
3-2:腰痛に強い整体に行く
- 慢性の腰痛
- 繰り返す腰痛
- 数日安静にしたら少し楽になった
- 動きや姿勢によっては、楽になる腰痛
このような腰痛の場合は、整体での施術で改善できる場合があります。整体であれば、多様な手技療法を使って腰痛の調整をすることができるからです。
ただし、整体院のすべてが腰痛を改善できるとは言えませんので、あなたに合った整体を見つけることが大事です。
まとめ
ここまで剣道・空手・柔道などの武道の稽古による腰痛の原因や予防法、対処法を解説しました。
簡単に内容をまとめます。
■武道の稽古で腰痛になる原因
- そもそも腰(腰椎)は痛めやすい部位であるため
- 腰を使って、身体の構造上間違った動きをしてしまうため
■武道の稽古で腰痛にならないための予防法
- 背骨を上下に張る意識を持つ
- 胸椎の可動性を上げる
- 肩甲骨の可動性を上げる
- 股関を使えるようにする
生活や稽古の改善に、この記事を参考にしてみてください。
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