あなたは「セルフトーク」という言葉をご存知ですか?
私は以前から、自分のアタマの中で使っている言葉、問いの立て方を意識し、別の言葉、問い方に置き換えることで生産的に考えたり、行動を変えたりできると感じていました。
また、実際にアタマの中での問い方を意識的に変える習慣を持っていました。
こうすることで、本当に思考や行動をうまくコントロールできるのです。
これは、私が剣術の先生から教わった「とある言葉」から工夫を重ねて、習慣にできるようになったことです。
そんな私の習慣をまさに説明している本を見つけました。
それが『セルフトーク・マネジメントのすすめ』です。コーチング本を多数出している鈴木義幸さんが書いた本ですが、本当に良い本だったので詳しく紹介します!
※剣術の先生から聞いた「ある言葉」については「まとめ」で書いています。
セルフトークとは?
セルフトークというのは「何らかの行動のトリガーになるアタマの中での独り言」のことです。
たとえば「失敗したらどうしよう」「不安だなあ」「笑われたら嫌だな」などと考えていたら、それがトリガーになって緊張してしまいます。この「失敗したら、、」などのアタマの中に湧いてくる言葉をセルフトークと言うのです。
ネガティブなセルフトークは、ネガティブな感情の引き出してしまい、それが行動に反映され、また「どうしよう」「またミスした」などのセルフトークが生まれる原因になります。
こうした悪循環にはまると何度も同じ失敗をしたり、頭が真っ白になってしまったり、、と悪いことずくめです。
そのため、著者はセルフトークを自分で意識的に言い換えることで感情を変え、行動を変えていこうと主張しています。
それでは、そもそもセルフトークはなぜ出てくるものなのでしょうか?
セルフトークはアイデンティティへの刺激から出る
セルフトークが出る理由について、著者の伊藤さんは、人はみな「アイデンティティ」を守りたいと思っているため、セルフトークが出てしまうと主張します。
伊藤さんの言うアイデンティティとは、以下のようなものです。
アイデンティティとは?
アイデンティティとは、自分にとって重要なセルフイメージ(自分はこういう人間だ、こういう人間として見られたい、というもの)のこと。
アイデンティティは、多くの人がとても大事に考えています。
そのため、アイデンティティが揺らぐ状況では、自分のセルフイメージ(こうありたい)に実際の自分の状態を一致させようとして、セルフトークが生まれます。
たとえば「自分は堂々とした人間だ」「人前でも臆さず話せる人間だ」というアイデンティティを持っている人が、人前に出て思った以上に緊張してしまった場合「もっと堂々としなければ」「緊張しているところを見せたくない」などのセルフトークが生まれます。
その結果、生まれたセルフトークが雑念になり、さらに緊張を生んでしまい、大きなミスにつながってしまうことも。
また、アイデンティティが刺激されやすい状況には以下のようなものもあるそうです。
- コンプレックスを持っている
- 思春期
- 価値観が刺激された時
- 世界観が揺らぐとき
では、どうしたらセルフトークを変えて、行動を変えられるのでしょうか?そのために、次にセルフトークが出るメカニズムを説明します。
行動を変えるにはセルフトークを変えるしかない理由
そもそも、人の行動は以下の流れで起こるものだと伊藤さんは説明しています。
ビリーフとは?
ビリーフとは、セルフトークを生む、その人特有の思い込みや価値観のことです。
上記のような流れで行動が変化するため、ある刺激(たとえば緊張する状況)から特定の行動(緊張して声が震える、など)が起きないようにするためには、どこかの要素に対してアプローチすることが必要です。
伊藤さんによると、ビリーフや感情、行動を変えることは以下の通り難しいそうです。
- 行動を変えてビリーフを変える
→ビリーフ(思い込み、価値観)が変わるまで行動し続けられる人は少ない
(例:「振られ続けてもナンパすることで、女性に対する不安をなくす」というアプローチが続けられる人は少ない) - 行動の源泉である感情を変える
→感情は移ろい続けるものなので、特定の感情(これをやり続けるんだというやる気や決意など)を維持し続けることは難しい。 - ビリーフそのものを変える
→ビリーフ(思い込み、価値観)は衝撃的な出来事がないと変わらないもの
しかしセルフトークは変えることができるため、セルフトークを変えれば行動を変えることができるのです。
伊藤さんの考えでは、セルフトークも感情も前頭葉で生まれているため、感情を起因させるセルフトークを変えると感情まで変えられるのだそう。感情はつかみ所がないけれど、セルフトークは明確な言葉として掴むことができるため、変えやすいのです。
では、実際にセルフトークを変えるためにはどうしたら良いのか。
結論から言うと「ネガティブ・受動的なセルフトーク(セルフトークA)を、「ポジティブ・積極的なセルフトーク(セルフトークB)」に言い換えることです。
セルフトークには二つある
セルフトークには「セルフトークA」と「セルフトークB」があります。
- セルフトークA・・・感情を呼び起こし「反応としての行動」を起こす。
- セルフトークB・・・理性によって「対応としての行動」を起こす。
セルフトークAは「反応としての行動」を起こします。たとえば、遅刻することを許せないというビリーフ(思い込み、価値観)を持つ人が、部下が大事な会議に遅刻してきたのを見たという場合を考えて見ます。
この場合「大事な会議に遅刻するなんて許せない」というセルフトークが自動的に湧きだし、それが「怒り」という感情を引き出し、自動的に怒鳴りつけてしまう。このようなものがセルフトークAです。
それに対してセルフトークBとは、理性によって、つまり自分のアタマで考えて発するセルフトークです。
上記の例で言うと、部下が遅刻してきたときに「なぜ遅刻してきたのだろう」「まずは遅刻してきた理由を聞いてみよう」と理性的なセルフトークを発し、怒鳴りつけるのではなく問いかけて話し合う、といった行動を引き起こすことです。
このように目的や積極性があるのがセルフトークBです。
セルフトークAをセルフトークBに言い換えることができれば、行動が生産的なものに変わるのであり、また、セルフトークAをそのものをできるだけ減らし、なくしていくことができれば、イライラしたり感情によって行動が左右されることがなくなるのです。
私自身、これは『セルフトーク・マネジメントのすすめ』を読む前から実践してきたことだったのでよく分かります。
伊藤さんの言う「セルフトークA」を把握するだけでも、理性的に行動できるようになるし、無意味なセルフトークで頭がいっぱいな時に、その状態を自覚し「さて、どんな問い方にしようか?」と考える癖をつけると、次々に悩みを解決していけるのです。
さらに、本の後半ではセルフトークを「変える」「使う」「減らす」「なくす」という、より具体的な方法についても詳しく説明されていたので、紹介します。
セルフトークを変える、使う、減らす、なくす方法
セルフトークは、「セルフトークA」を自覚するだけでも十分意味があることだと思います。
しかし、セルフトークAを自覚するだけでなく、それを積極的にセルフトークBに言い換えたり、セルフトークBを意識的に使ったり、セルフトークAを減らしたり、なくしたりすることができれば、もっともっと自分の行動をコントロールすることができます。
そこで『セルフトークマネジメントのすすめ』で書かれていた、
- セルフトークを変える
- セルフトークを使う
- セルフトークを減らす
- セルフトークをなくす
それぞれの方法について解説します。
セルフトークを変える
セルフトークAをセルフトークBに言い換えることで、行動を変えられることを説明しました。
具体的な言い換えの方法としては、以下のように「自覚し、言い換える」という順番で行います。
①自覚する
まず、自分がネガティブな状態であること、その状態の原因がネガティブなセルフトークにあることを認識する必要があります。
最初は、なかなか自分がネガティブな状態にあるとき、その原因であるセルフトークAを捕まえることは難しいです。しかし、例えば毎日日誌を書いて、書いている時のセルフトークを自覚し、書き出すような習慣を持っていれば、自分のセルフトークを捕まえることができるようになります。
つまり、習慣によってセルフトークを自覚できるようになるのです。
②認識したセルフトークAをセルフトークBに言い換える
次に言い換えです。
セルフトークAをセルフトークBに言い換える方法には、以下のポイントがあります。
- 否定質問を肯定質問に変える
「なんで〜できないんだろう?」「なんで〜なんだろう?」といった否定的な質問を、「どうしたら〜できるんだろう?」という肯定的な質問に言い換える。 - 他責を自責にする
すべてのことを「自責」つまり「自分で変えられる」と認識することで、自分が変えられる部分に光を当てて「私がこの状況を変えるとしたら、どうしたら良いだろう?」「どの部分なら変えられるだろう?」と考える。 - 背景を探る
怒りが湧くような場面で、なぜ相手がそのような言動・行動をするのか背景を探り、その人がどんな感情なのか、なぜそんな言動・行動をするのか考える。 - 視点を変える
目先の問題解決にすぐに向かうのではなく、自分の能力を上げて問題を問題じゃなくしてしまう、などの解決策を考える。新しい問い方をすることで、前頭葉に別の視点から検索をかけることができ、新しい発想が生まれる。
これらのポイントを意識することで、セルフトークAをセルフトークBに変えやすくなります。
また、変えるべきセルフトークは以下の2つの種類に分けられると伊藤さんは主張します。
- もし〜しなかったら?(if not)
- どうしてこんなことに?(why not)
このセルフトークAを自覚し、ネガティブなセルフトークをポジティブなセルフトークに言い換えることで、自分の行動を積極的に変えていくことができるのです。
セルフトークを使う
生産的な行動の裏側には、必ずセルフトークBがあります。
みなさんも仕事中のアタマの中では「どうしたらできる?」「何からやる?」「いつからやる?」「誰に頼む?」といったセルフトークBが常にあるのではないでしょうか。
それに対して、同じことをぐるぐる考え続けて結論を出せなくなっている時は、セルフトークAが渦巻いているということです。
- 悩む・・・答えを求めて同じ所をぐるぐる回っている状態。セルフトークAが渦巻いている状態。
- 考える・・・明確な問い(セルフトークB)を立てて、答えに向かって進んでいる状態。
セルフトークBを意識的に使うことで、生産的に考えを進めることができます。
やっかいなのは、得意な領域のことについては意識的、無意識的に様々な問いを立て、考える(セルフトークBを使う)ことができるのですが、不得意な領域のことについては、悩むこと(セルフトークAに任せること)になりがちだということです。
逆に、問いを立てられないからこそ不得意になる、とも伊藤さんは書いていました。
そのため、不得意な領域でこそ意識的に問いを立て、セルフトークBを意識することが大事なのです。
※セルフトークAを自覚し、顕在化するために、瞑想やマインドフルネスを行うことも大事だと紹介されていました。
他にも、セルフトークを使いこなすために以下のようなことが紹介されていました。
- 自分の心にスイッチを入れるセルフトークBを持っておく
特定の状況で自分の心にスイッチを入れ「戦うぞ」「負けないぞ」という気持ちを高めるために、セルフトークを使うことができます。伊藤さんもスイッチを入れる時に使うセルフトークを決めているそうです。いつ、どんな状況になったらそのセルフトークを使うのか決めておき、必ずその通りにする(ルーティンにする)ことが大事です。 - 逆説的なセルフトークを使う
「緊張する」「赤面する」などの場合は「緊張したくない」「顔を赤らめたくない」と思ってしまうと、逆効果です。そのため、逆に「緊張しろ」「顔を赤らめろ」と自分に問いかけることで「緊張」「赤面」をコントロールの対象にし、緊張を緩和させることができるそうです。
セルフトークを減らす
セルフトークAは感情に直結し、ネガティブな状況では自動的にネガティブな行動を引き起こしてしまうと説明しました。
そのため、私たちが考えるべきなのは「いかにしてセルフトークAを減らしていくか」ということです。
もちろんセルフトークAをセルフトークBに言い換えることも「Aを減らす」ことではあるのですが、それだけでなく「セルフトークAを発生させないようにしていく」ということも大事です。
セルフトークを発生させないための方法としては、以下のポイントが紹介されています。
ストレスの源に限りがあることを自覚する
たとえば仕事がストレス源になっている場合、その仕事のことから離れられないとストレスがたまり、ネガティブなセルフトークが生まれるきっかけになります。
そのため、ストレスには限りがあると考えて「会社から出たら仕事のことは一切忘れる」などのルーチンを作ると良いそうです。
ルーチンを作って守る
少し前に、ラグビーの五郎丸選手が試合中に行うルーチンが話題になりましたね。
スポーツ選手がルーチンを行うのは平常心でプレーするためですが、それは「セルフトーク(雑念)をなくし、目の前の活動に対して無心に取り組むことなのだそう。
そのため、ネガティブな状況(緊張、不安、落ち込みなど)を把握できたら、その状況に入る前、もしくは入りそうな時に必ず行うルーチンを決めておいて、決めたことを決めた時間、決めた順番で必ず行うようにすると良いのです。
アイデンティティを理解する
アイデンティティは簡単に変えることはできません。
しかし、その捉え方を軽くすることはできます。そのためにはアイデンティティを絶対のものと考えない、つまりアイデンティティが「自分そのもの」だと考えない方が良いそうです。
アイデンティティは場に応じて変えて良いもので、一貫していなくて良い。一人の身の中にいくつものアイデンティティがあって、使い分ける「役割」だと考えれば良い。
アイデンティティと言うのはいわば「自分の外側」に何層にも重なっているもので、それが本当の自分自身ではない。だから、アイデンティティが刺激されても反応しなくて良いのだ。
このように考えることで、アイデンティティそのものを変えなくても捉え方を軽くし、ネガティブなセルフトークを生まないようにしていくことができるのです。
他人のために行動する
人は、自分を守ろうとするときにセルフトークAが生まれます。
そのため、自分のためではなく、他人のために行動すると、セルフトークAが生まれないのだそうです。
たとえば、人前で話すときに「緊張していると見られたくない」「〜のように見られたい」と思うのは、自分を守るセルフトークです。しかし「この場の皆さんに、最大限の価値を与えたい」「“私たち”が成功するために、何をすべきだろう?」と、「私」ではなく「私たち」と言い換えて考えることで、セルフトークAは出にくくなるのです。
レッテルを剥がす
「彼は役に立たない」「無能だ」「リーダーシップがない」「アタマがかたい」など、人に対してレッテルを貼ってしまうことは多いと思います。
しかし、このようなレッテルがあると、人のコミュニケーションをする中でネガティブなセルフトークを生みやすいのだそうです。
そこで、自分が人に対して貼っているレッテルを自覚し、それを剥がして素直に人を見ることで、セルフトークAが出ることを避けられるようになります。
未完了のことをなくす
これは私がとても大事だと思ったことですが「未完了」のことがあると、セルフトークが出やすいそうです。
「未完了」というのは、自分の中で消化しきれていないこと、気になることのことです。たとえば「あの人に対して失礼なことをしてしまったな」「今日中に返さなきゃ行けないメール、まだ返せてないな」などです。日常の中に大量にありますよね。
こうした「未完了」があると集中力をそがれるためセルフトークAが出やすくなるそうです。
特に、人間関係についての「未完了」は長い間人の心に根付くため、できるだけその場その場で、言い残したことがないように話し、後になってうだうだ考えなくて良いようにすることが大事なのです。
人間関係の未完了は、私自身残しがちなのでこれから気をつけたいと思います。
セルフトークをなくす
セルフトークを減らしていくと、最終的には「なくす」ことを考えるべきです。
セルフトークを無くした状態とは「無心」「フロー」「ゾーン」などと言われる状態です。武道的には「明鏡止水」の境地などと言いますが、これもある意味セルフトークを無くした状態なのでしょう。
心の中に何も言葉がなく、目先の行為に没頭できている状態。
この状態になると、とても高いパフォーマンスができたり、すごい努力ができたりしますよね。
この状態に意識的に入れるようにするためには「プロセスそのものを楽しむ」ことが大事です。結果を見据えての行動ではなく、行為自体を楽しむ。そして、普段からセルフトークを減らす努力をして、できるだけセルフトークをゼロにできるように準備しておく。
こうした意識を持っておくことでフロー、ゾーンといった状態に入れるようになると伊藤さんは主張します。
これがセルフトークを「なくす」ポイントです。
まとめ
冒頭にも書きましたが、私は『セルフトーク・マネジメントのすすめ』で書いてあることは、自分ですでに実践していたことでした。しかし、この本を読んで自分の経験、知識を整理することができ、これからもっと積極的に取り組みたいと思いました。
セルフトークを変える一番良い方法はコーチングを受けること
私はコーチングを受けるようになってから、アタマの中にある「問い」を捉えやすくなりました。また、アタマの中に「どうしたらできる?」などの肯定的な質問を持ち続けやすくなりました。
なぜかというと、コーチングを受けると自分では考えたことがなかったような問いを投げかけられ、その問いに真っ正面から向き合って考え続ける、という体験を何度もするからです。
セッション中にこうしたやり取りを繰り返すことで、セッション後一人で考えている時も、こうした「問い」がアタマの中から離れなくなるのです。
こうした体験については、詳しくは以下の記事に書いています。
セルフトークと剣術
私は剣術を習い始めてすぐのころ、先生から「体知体聞」という言葉を教えてもらいました。私が修業する剣術の流派に昔から伝わる言葉なのだそうです。
これは、自分の体の声に素直に耳を傾けることで、より良い動きを探求していく姿勢のことです。
まさに自分のセルフトークを捉えていくアプローチなのだと思います。
私はこの教えを聞いてから、日々、自分の内側(頭と体)から聞こえる声に耳をすませていたため、セルフトークを言い換える習慣も自然に作られていたようでした。
これからも「体知体聞」の意識で、セルフトークを使いこなす努力をしていこうと思います。
■剣術師範、整体師(身体均整師)、ライター。セルフケア・トレーニングのオンライン教室運営中。
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