心理系

岡田尊司『ADHDの正体』の要約・感想

2021年5月22日

仕事の関係で、岡田尊司『ADHDの正体』を読んだ。

近年、発達障害やADHDといった言葉は、本来の意味を超えて広く知られ、使われている傾向があるように思う。

そして、多くの人が「自分も発達障害かもしれない」「自分もADHDかもしれない」と心配になったり、人と話したりすることが増えていると感じる。

こういった一般的な議論の中では、発達障害は生まれつきのものである。そして、その生まれつきの何らかの特性によって、自分の「今の苦しさ」「生きづらさ」が生まれているのだ、と解釈されることが多いのではないか。

そのように、発達障害に関連する悩みを当事者や身近な問題として少しでも抱えたことがある人は、この本を読むと新しい視点が得られる。

『ADHDの正体』の要約

大人のADHDには誤診が多い

ADHDは発達障害の一つだが、近年、大人になって注意力の欠陥、集中できない、などの症状で実生活に影響が出ているという人が増えているという。

これが大人のADHDと言われている。

しかし、実は、この大人のADHDは子どものADHDと同じものとは言えない可能性がある。

子どものADHDは発達の問題で、その多くが大人になる家庭で改善していく。しかし、大人になってからも残っている、もしくは大人になってからADHDの症状が強まるものの場合は、別の原因があることがある。

そのため、大人のADHD的症状を、子どものADHDと同じように取り扱い治療しようとしても、改善しない。

もともと、大人のADHDは子ども時代から症状が連続しているものが診断されるはずだった。しかし、診断基準が緩くなるなどで、誤診されることが増えている。実際、子ども時代からの連続した症状がない大人のADHDも少なくないという研究結果がある。

これは、注意欠陥、多動といった症状からADHDと診断しているためであり、実はこの症状があるからといってただちにADHDとは言えない。ADHDは実はさまざまな症状の寄せ集めであり、遺伝子だけでなく環境因子によっても強く影響を受けている(64-65頁)。

「この事実は、親の遺伝的影響とみなされているかなりの部分が、実は、そうした特性を持った親に育てられることによるものである可能性を示している。ADHDの親を持つ子がADHDになりやすいのは、ADHDの遺伝子を受け継ぐからではなく、ADHDの特性を持つ親の養育の仕方によるという可能性だ。」(68頁)

大人のADHDの人の処理速度と子どものADHDのそれとを比較した場合にも、明らかな違いがあるという。

子どものADHDの場合、処理速度が低いために、与えられた課題をこなすのに時間がかかる、間違いが多い、ということがある。しかし、大人のADHDの場合は、ADHDのスコアが高くなるほど処理速度が高くなる、つまり頭の回転が早い、ということが明らかになっているそうである(81頁)。

実際には、このような処理速度の検査を受けずにADHDと診断される、大人のADHDの人も多いそう。そのため、誤診されてしまっている。

ADHDの診断はこのように、厳密な手続きを経ず、特徴的な症状から診断されてしまっている現状があるようだ。

自閉症とADHDの関連からも、ADHDが先天的なものではない、別の原因から現れる可能性が分かる。

自閉症は先天性の高い発達障害と考えられてきたが、生まれ育った環境によって、「疑似自閉症」の症状が現れることが長期の研究で分かった。

そして、「疑似自閉症」の人には「疑似ADHD」の症状も現れていたのである。つまり、ADHD的な症状は、先天的な症状だけでなく、生まれ育った環境によっても出てくるものなのである。

LD(学習障害)、知的障害などは、養育環境の影響はそれほど受けない。

しかし、ADHDや自閉症といった発達障害は、養育環境の影響を強く受けていると思われる。そのため、親が発達障害であったり、虐待、放置、抑圧的など問題のある親だった場合に、子どもは疑似的に発達障害の症状を持つ。

つまり、大人のADHDの多くが実は「疑似発達障害」ではないか、ということを著者はさまざまな研究と自身の経験から、明らかにしている。

発達障害と愛着障害の問題

先天的な要因ではなく、養育環境の影響で子どもが問題を抱えてしまうものを、「愛着障害」という。著者は、愛着障害の著作を多く発表してきたことで知られているが、大人のADHDを含む発達障害の問題の多くが、実は愛着障害なのではないかと考えているようだ。

とはいえ、発達障害と愛着障害を、簡単に分けることはできない。むしろ、それぞれが絡み合って問題が出ている可能性もある。

著者は、ADHDを下記のように分けている。

  1. 発達障害による本来のADHD
  2. ADHDが、愛着障害で悪化している
  3. 愛着障害などの養育要因で生じた疑似ADHD
  4. 養育要因以外の要因から疑似ADHDを生じている

4については、食品添加物、ゲーム・ネット依存による睡眠不足、多忙など、現代社会特有の問題から生じるものであるそう。

この本のテーマはADHDだが、著者は現代人の多くが発症している、「うつ」「不安障害」「境界性パーソナリティ」「摂食障害」「依存症」「疑似ASD」などの多くは、愛着の問題から発症しているのではないかと主張する。

「不安定な愛着を抱えた人ほど、これらの発症リスクの増大が認められる。同時に、これらは、この数十年増加が目立つ者ばかりでもある。(中略)精神疾患や行動障害の急増の根底には、不安定な愛着に起因する障害の増加があるのだと考えると、納得できる。」(164頁)

愛着の問題が生まれやすい現代日本の社会

現代人は、その養育環境や社会的要因から愛着が不安定になりがちであり、愛着が不安定であるからいじめ、離婚、虐待、ハラスメントといった問題が生まれる。これらの問題から、さらに愛着が不安定になる、という悪循環が進行している。

これが、現代社会の根底にある大きな問題であり、大人のADHDの問題は、それと繋がる一つの問題であるのだ。

もちろん、発達障害のすべてが養育要因なのではない。先天的なものも少なくない。

しかし、発達障害という言葉があまりに広がり、安易にADHD、ASDといった言葉が使われ、そういった特性が「生まれつきのものである」と断言されてしまうことで、養育環境によって生まれた愛着の問題は、覆い隠されてしまう。

社会の変化から、愛着が不安定になり、それによってさまざまな「疑似発達障害」的な症状で苦しむ人が増えた。であれば、その「社会」とはどういう場なのか、よく少し離れて見ることで、その社会とどう付き合っていくか、捉えやすくなる。

そうすれば、苦しみから解放され、生きやすくなる人も増えるのではないか。

感想

ADHDという言葉は、あまりに安易に使われ、むしろそれが「変化の多い現代社会を生き抜くのに良い特性である」のように語られることがある。確かに、これは当事者に希望を与えるかもしれないが、本当に苦しみ、社会で辛い思いをしている人にとっては、「そんな簡単なことじゃない」という印象も与えているのではないか。

この著作は、そんなADHDに関する諸議論に疑義を唱えるもので、新たな視点を与えてくれるものだと思う。

多くの人に読んでみてもらいたい。

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